『過剰論 経済学批判』 高橋洋児 2012/01
著者は経済学博士、静岡大学名誉教授。 「過剰」に注目した経済理論についての本。
リーマンショック関連の危機の根本原因は、金融の暴走ではなく生産力過剰。生産力過剰とはマネーの有利な運用先が見つからないということ。これにより金融肥大化が起きた。モノ余りがカネ余りをもたらした。
アダム・スミスの時代には生産力過剰を原因とする失業・不況・経済摩擦・戦争といったことは起きていない。過剰が問題にならないから、生産力拡大は社会的利益である。このような観点からスミスは規制撤廃やレッセフェール(自由放任主義)、夜警国家(小さな政府)を唱えた。今日には適合しない。
「資本主義」はcapitalismの和訳であるが、「主義」とつけたのは誤訳である。社会主義、自由主義、民主主義などの政治思想は一定のイデオロギー的理念として主張される「主義」であるが、経済に「主義」は無用である。自由企業体制や市場経済の礼賛者は大勢いるが、「資本主義者」はいない。「キャピタリスト」は資本家であって資本主義者ではない。
「資本主義国」とは、多数の資本制企業が産業全体の「基軸」としてのウェイトを占めている国。資本制企業とは、資本-賃労働関係を持つ企業である。公務員も賃労働であるが、給与水準の決定が恣意的なのでこれに該当しない。
経済発展のM→B→D。経済発展は、消費財に関してmore(より多くの)→better(より良質な)→different(差異のある) という順序をたどる。
富裕度が高い社会での所得格差は本質的な問題ではない。
生産力も金融も過剰状態にあるのが現代世界経済の実状。昨今のデフレ論の間違いは、「需要不足」という言い方に象徴される。本当は供給過剰に問題がある。
需要拡大策も供給縮小策も決定打にはならない。結局だましだましの資本主義路線が現実的で、最重要なのは政府の役割となる。
