東雅夫編『おばけずき　鏡花怪異小品集』（平凡社ライブラリー）

恐がりのくせに怖い話大好きでおなじみ泉鏡花の、怪異にまつわる小品ばかりを集めた一冊です。小説に限らず随筆・談話・さらにこの中のどれとも言いがたい百物語部門まで設けられています。 どれも短い作品ばかりですが怖さは手加減なしです。どことなくユーモラスな、しかし人間とはまるっきり異質なおばけたちは、ちょっとだけ姿を見せたかと思うとすぐ向こうへ行ってしまいます。拍子抜けするほどあっさり消えるとわかっていても、でもここでうっかり目が合ったら死ぬよりひどい目に遭わされるんじゃないかと思うようなたたずまいで、主人公を全く意に介することなくそこに存在しています。表紙絵にもなっている「怪談女の輪」は特におすすめ、いや恐いのでおすすめでもないんですけれども、和室の旅館で読むと大変趣深いのではないかと思います。 随筆篇に収録された関東大震災での被災経験を綴った三篇も圧巻です。震災直後の混乱もさることながら、焼け出された鏡花が見る夜の幻想が強烈です。