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『冷たい校舎の時は止まる』 辻村深月

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学生時代に胸のなかにあったさまざまな思いを
作者はこの作品に詰めこんだようです。
辻村深月が高校生の時に書き始め
大学生でも書き続け、メフィスト賞を獲ったデビュー作。

dot blue.gif

登校してきた8人の生徒。
なぜか、校舎には他に誰もいなかった。
閉じ込められた彼らは気づく。
学園祭最終日に投身自殺した人の名が思い出せないことに。

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クローズド・サークル(closed circle)
冷たい校舎の外に出ることはできない。
何故?どうすれば脱出できる?
自殺したクラスメイトがカギを握っているのか?

高校生の頃におちいる自己否定スパイラル。
外からは恵まれているように見えても
心のなかは混沌としていて
すぐに負の感情に振りきれてしまう。
未熟で視野が狭く、感じやすく傷つきやすい。

しかしあの時代に感じたこと考え抜いたことは
その後の糧になる大切なもの。
そういう感情を掬い上げ言葉にすることが
辻村深月はとても上手です。

8人の自分語りはちょっと重いけど・・・

登場人物の書き分けはさすがです。
榊がなぜそれほどまでに生徒に好かれるのか
わからなかったけれど、最後にわかりました。
彼は男気のある優しい人でした。

諏訪裕二くんがかっこいいです。
桐野景子は彼に出会えてよかったね。

謎解きまでの構成、ひっかけ、ホラー描写があるのに
後味は悪くないところ、デビュー作とは思えません。
よくできてます。

しかし、結局のところホストのエゴとしか思えなくて
どうにも釈然としないわけで・・・

以下、未読の方はご注意を

 

 

 

*

*

*

 

深月のつらさはよくわかる。
しかし、自分を救ってくれた教師と友人を巻き込み
傷つける行為は、やつあたりとしか思えない。
当人も身勝手な考えだとわかっているようですけれど。

角田春子の深月にした仕打ちは
許すべきではないけれど、
自ら救いをもとめることができず、
追い詰められていることに気づいてくれる人もなく、
ひとりで死んでいった彼女が哀れです。

彼女にもゲートキーパーになる人がいれば・・・

罪悪感に押しつぶされている深月は
矛先を周りの人に向ける。
みんなは忘れてしまったの?

「ある人間が精神的に追い詰められた時、
その人間は自分の中に周りの者を
取り込んでしまうことができる。」

「人間は自分のその頭の中に
誰かを取り込んでしまった場合、誰かに
『自分の内側を閉めてもらわないといけない』
その必要性があるんじゃないか」

「誰か一人が、心の蓋を内側から閉める。
その一人には、死んでいる人間の意志も
カウントすることができる。」


「白い光」
それは死者からの贈り物だったのかもしれない。


周りの人間のさまざまな思いを理解した深月は
押し寄せる罪悪感ときちんと向き合い
死へと向かうことはもうないでしょう。

エピローグに出てきた春子が
穏やかな笑みを浮かべていてよかった。

「閉じこめた人間が許すこと。
それが一つだけ、帰ってくるために必要な方法」

深月は許した。
それは同時に乗り越えたということ。

* * *

「彼の口から出た言葉、『菅原』の響きに
一瞬耳馴れないものを感じ、しかしそれがすぐに、
懐かしさを伴ったイメージとして自分の中に溶け込んでいく。
ああ。深月は思う。ああ、菅原・・・・・」

菅原は最初から謎めいた印象がありました。
センター試験まであと一カ月もない時期での
停学処分なんてあまりに不自然。
しかし自殺する人物とは思えない。

菅原のエピソードだけがクラスメイトとの
つながりを語るものではなかったことに違和感。
それなのに鷹野を「博嗣(ヒロシ)」と呼ぶことがひっかかる。
右耳の金のピアス。
・・・そういうことだったのですね。
菅原は榊の若き日の姿。

「菅原榊」は中学生の頃に小学生の深月と出会った。
「ヒロ」と「みーちゃん」は教え子となっていました。

高校生の菅原も、教師としての榊もいいヤツです。

「深月、ここから帰ったら」
「生きるのを、諦めるな」

リカは教師になってサカキくんを追っかけることでしょう。
このふたりもお似合いだと思う。

 

 

ショッキングなスプラッタ描写は苦手・・・


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