評価:★★★
偽王伝、全7巻完結。
圧倒的な国力で侵攻を続けるシスタスを食い止めるべく、
フェンたち一行は皇王のいる旧神殿へと向かう。
ソルド王国を中心とした物語にはひとつの区切りがつけられて、
キャラたちにもまたそれぞれの着地点が用意されている。
でも、フェンの "世界を知り、自分を知る" 旅はまだ続くようだ。
うーん、なかなか評価がムズカシイなあ。
評価の星の数でも分かるかと思うけど
双手を挙げて「面白い!」って叫ぶほどではなかったし、
かといって「つまらない!」って投げ出すこともなかったし。
実際、最終7巻まで読み通すことができたし。
でも、なんだか最後まで乗り切れないというか、
もう少し読んでいけば、もっと面白くなるんじゃないか・・・
って思い続けていたら最後まで来てしまった、という感じかな。
私と作品の波長が合わなかったということなのだろう。
終わってみれば、こちらの予想というか
期待をはぐらかすような展開が多かったかなあ。
いわゆる "普通の" ヒロイック・ファンタジーを期待すると
当てが外れるというか。
あ、この場合の "普通" というのはあくまで私基準なんだけど。
このあとの文章は、ちょっとネタバレを含むと思うのでご注意を。
序盤の頃はフェンの行動に絞って描き、
彼女を追うことでストーリーを展開していく。
読者はまず "フェンの目" を通してこの作品世界を知る。
このおかげで、読み始め段階での物語の見通しは良いと思う。
そして、ストーリーの進行とともに
"今まで見ていた世界" と "実際の世界" が異なっていることに気づき、
そこからフェンの旅が始まる。
でも、そのためか、あとの方になるほど "過去のエピソード" とか
"キャラ同士の因縁" とかの回想シーンの挿入が増えてきて
それがメインストーリーの盛り上がりに水を差すように感じた。
もっと最初の方から、そういうものをあちこちにばらまいておいた方が
良かったんじゃないかなあ。
例えば、ローゼルのエピソードは、もっと早い段階(2巻あたり)から
小出しにしておいても良かったのかも。
まあ、これは7巻をまとめて読んでるから言えることで、刊行中は
出版の間隔が数ヶ月空くことを考えたら仕方ないことなのかなあ・・・
キャラの行動にもよく分からないところを感じた。
前にも書いたけど3巻でのクトラとか。
最終巻でのクレイノアだって、初登場の時とは別人のようだ。
多重人格なんじゃないかって思っちゃうよ。
キャラと言えば、意外なくらいキャラが死なない話だったなあ。
途中で「ああ、これは死んじゃったなあ」って思ったキャラでも
「え、あれで生きてたの?」ってのがひとりふたりでは収まらない。
最後の最後であの人が生きてたときには、もう驚きを通り越してしまった。
いや別にたくさん死ねばいいというわけでは無いし、
あのラストに持って行くんなら、あんまり死なせない方がいいというのも
分かるんだけどね。
ラストと言えば、ほんと「いったい誰が悪かった」んでしょう?
だいたいみんなハッピーになったみたいだから、
それでいいんだとも思うんだけど、
何となくすっきりしない気もするんだよなあ・・・
何だか文句ばっかり書いてるけど、
登場する国家がそれぞれに統治体制が異なっていたり、
ローゼルを初めとするラビッジ国のキャラや
シスタスの武将たちはとても個性的で魅力たっぷり。
個々の要素には面白いものがたくさんあると思う。
ただ、見せ方というか語り方が、
今ひとつ私の好みと合わなかったみたいなんだよね。
ソルドとシスタスを巡る "偽王" の物語は終わったけど、
サチの正体や目的、テオの真意も不明だし、
フェン自身の旅の目的もまだ達成されていない。
それに、あの第1巻の始まり方を見たら
最後はフェンが故国へ帰って、諸々のことに落とし前をつけないと
完結しないんじゃないか・・・って思ってたんだが、
どうやら続編でそのあたりが描かれるらしい。
どうしようかなあ。続編、読もうかなあ。
まあ、文庫になったら考えよう。
最後にどうでもいいことをちょっと。
ヒロインの名が "フェン" だったり、
その言葉に "風" という意味があるのは、
千葉暁の「八の聖刻」へのオマージュなんでしょうかね?