2013年はかなり少ないですが・・・
2014年になってしまいましたが、今さら感満載ながらも恒例の2013年に読んだ本の中で良書の総括をしたいと思います。2010年から始めて、2011年、2012年と続き、2013年で4年目になります。時が経つのは本当に早いなぁ・・・(しみじみ)。2013年は2012と同じように読んだ本が少なかったうえに、読んでもレビューをあげる程ではない本が結構多く、個人的な感想として残念ながら本に関してはかなり不作の年だった感が否めません。
少なめです
しかしながら、しっかりとテーマを決めて本を選ぶという新しい取り組みにチャレンジし、それに関しては未開のジャンルに踏み込むことができ、しかも素晴らしい本に出会えたので満足です。今年はテーマであった”児童書”と”一般小説”の2つのカテゴリーを設けて本を紹介していこうと思います。
1、児童書
今年のテーマは「児童書を読もう」でした。読書に面白さ楽しさに目覚めるのが遅かった私にとって児童書は未開の分野であり、最近友達の子供が大きくなってきて本を読むようになったという話を聞き、いつか本をプレゼントする日が来てほしいな、という思いからこのテーマを設けました。児童書という言葉にピンとこない人もいるかと思いますが、ジュブナイルというジャンル名でお馴染の人もいるのではないでしょうか。
「王への手紙」(トンケ・ドラフト著)
今年読んだ全ての本で一番面白かった本です。16歳の見習い騎士ティウリが騎士から手紙を渡され、隣の国の王へその手紙を届けるという物語です。もちろん道中襲われたり、雪山で命の危機に襲われたり、生涯の友となる少年ピアックと出合ったりとその物語は波乱万丈。物語の展開もとても早く、ページをめくる手が止まらないとても面白い小説です。そしてこの物語を特別にしている一番の要素が「すべては自分で考え、決めて行動しろ」という自己責任の意識を強く説いていることです。オランダというお国柄ですね。ティウリ少年が自分の選択の過ちをしっかりと受け止めて成長していく姿が印象的です。この「王への手紙」には続編「白い盾の少年騎士」があり、幾多の困難を乗り越え自分の使命を果たしたティウリとピアックの冒険はまだまだ続きます。「王への手紙」を読む時は続編の「白い盾の少年騎士」も購入してから読み始めることを強くオススメします。なんせ続きが読みたくて本屋に走るはめになること間違いなしですから!!(レビューはコチラ)
「ともしびをかかげて」(ローズマリ・サトクリフ著)
こちらも児童書なんですが、前述の「王への手紙」よりもぐっと大人の内容になります。ローマに支配されていたブリテン島を舞台に武人アクイラの人生の物語です。自分の大切な物を守るために剣を振るうアクイラと彼を取り巻く人々の思いが錯綜しながら物語がどんどん展開していきます(アーサー王物語とも関係があります)。一般的な冒険物語ではなく、アクイラという一人の男の人生を通じて"人生は迷いながら進んでいくものであり、時には何かを諦めたり、妥協する必要もあるけれども、決して止まらずそのまま進み続けろ”というメッセージが強く読者の心に響いてきます。物語の最後にこの本のタイトルになる非常に重要な会話が登場します。この言葉が持つ真の意味を知って、人が進み続けるように時も時代も流れ続けることの意味が何を指すのかを知ることになると思います。内容が人生全般に及ぶため児童書のジャンルよりも大人向けかと思いますが、こちらも素晴らしい作品でした。なお、この本は「ローマンブリテン4部作」の3作目になるので、読んで面白いと感じた人は同じシリーズの他の作品にも挑戦されることをお勧めします(レビューはコチラ)。
「飛ぶ教室」(エーリッヒ・ケストナー著)
児童書の大家ケストナーの超有名作「飛ぶ教室」です。5人の男の子達の成長物語の中に、大人の読者には”子供にも大人と同じように悩みや不安、そして不幸があるのだ”というメッセージを、そして子供の読者には”自分を誤魔化してはいけない、不幸な目にあった時はそれを見つめ、くじけず、へこたれず不死身になれ。勇気と賢さが人生でとても大切である"と説いています。こちらもジャンルは児童書ですが、大人の愛読者も多い理由がこの辺にあるのでしょう。私も久しぶりに読み返し、改めてケストナーはやっぱり凄いなぁと再確認しました。理想主義にとどまらず、子供にも理不尽な現実があるんだというビターなテイストを小説に盛り込んでいるのがこの本を名作にした大きな要因だと思います。年頃の男の子5人の友情物語、特に男の子にオススメですね(レビューはコチラ)
2、一般小説
ここからは児童書以外で今年読んで面白かった本を取り上げます。巨編からミステリー、ハードボイルド小説とジャンルを限定することなく、純粋に読んで面白かった本達を選んでみました。世界的名著から有名作家のちょっと意外な作品まで幅広く選んでみました。
「アンナ・カレーニナ」(トルストイ著)
文学史上燦然と輝く名著です。ま、眩しい!!本好きなら一度は読んだことがある本だと思います。日頃ロシア文学嫌いの為なるべく読まないようにしているのですが、久々に「アンナ・カレーニナ」を読んでその圧倒的な作品の力の前に完全ノックアウトです。やっぱりスゴイ、凄すぎる作品です。ロシア社交界の華アンナと青年将校ブロンスキーの不倫の愛の物語ですが、主人公アンナの人柄が素敵なので彼女を嫌うことが出来ず、彼女が不幸へ転がり落ちていく姿とその過程で起こる時代の流れや新しい価値観の台頭といった社会的要素を絡めながらアンナとブロンスキーの恋は冒頭で啓示された結末に向かってひた走ります。恋に生きる女性アンナの美しく気高かった精神と知性がゆっくりと崩壊していく様を緻密にそして冷淡に描くトルストイの描写力も凄いです。そして恋愛小説のこの作品は実はトルストイの理想とする社会主義を称賛する政治的メッセージが強い作品でもあります。とにかく”まだ読んだことがない人は読むべし”の一言に尽きる小説、文学界のラスボス級の破壊力と完成度を持った究極の作品です。特に女性は一度読むと中毒となって何度も読み返すほど好きになる人が多い作品としても有名ですね(レビューはコチラ)。
「二十四の瞳」(壺井栄著)
アンナ・カレーニナの真逆の性格の女性が主人公の反戦をテーマにした日本文学の重要作品です。作者壺井栄の慈愛と慈悲から作り上げた一人の新米女性教師大石先生を通して、瀬戸内海の貧しくも美しい田舎町に忍び寄る戦争の気配と戦後の混乱とその悲劇を描いた小説です。反戦小説というと読むのが大変なイメージがありますが、ここは政治色を一切抜いて、ただ一人の女性(大石先生)が経験する悲しみや空しさ、苦しみを通して描いています。教え子を戦地に送り出す先生としての悲しみ、戦地で夫を失い若くして寡婦となってしまった苦しみ。そういった多くの人が実際に体験したであろう戦争がもたらした哀しさを淡々と描き、全てが終わっても決して埋まることのない空虚感や喪失を自然の美しさと対比しながら描かれています。この小説の題名でもある24の瞳は、大石先生が担任として預かった12人の小学生達の瞳の数です。この24の瞳を決して穢してはならないと己に誓う大石先生の姿と、戦争が終わりかつての教え子達と再会を果たした時の描写は秀逸です。自転車で颯爽と登場するハイカラな大石先生は、今でも理想とする先生の姿だと思います。教職を目指す人は是非一読を(レビューはコチラ)。
「大いなる眠り」(レイモンド・チャンドラー著)
私立探偵フィリップ・マーロウにはまって随分経ちますが、ようやくデビュー作であるこの作品を読むことが出来ました。しかも翻訳は村上春樹さんです。もちろん作品自体も良かったですが、訳が非常に分かり易くすんなり物語の世界に入ることが出来ました。相変わらずマーロウは格好良いですね。今でも男性に圧倒的な人気を誇る理由が分かります。彼を取り巻く一癖も二癖もある登場人物達。時には彼らの思惑に踊らされながらも事件の真相に近づいていく物語は非常に面白かったです。これから読む人もいると思うので物語の中身は敢えて書きませんね(レビューはコチラ)。
村上春樹さんと言えば新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の発売がありましたね(レビューはコチラ)。こちらも内省的なハルキワールドが濃い小説で結構楽しく読ませてもらいました。次回の作品にも期待したいと思います。
「春にして君を離れ」(アガサ・クリスティー著)
2013年の最後を締めくくるのはミステリーの女王アガサ・クリスティーの作品「春にして君を離れ」です。この作品ミステリー小説ではないことを先に明記したいと思います。この本はアガサ・クリスティーが純文学として書いた作品でミステリー色が濃い自分の名前を使わずにメアリ・ウェストマコットというペンネームで出版した作品なんです。どれだけアガサが気合を入れて書き上げた作品かこれだけで分かるというものです。幸せな主婦が娘の嫁ぎ先を訪問した帰りにふと自分の人生は本当に幸せなんだろうかと疑問に感じ始め、これまで家族の間で起こった出来事を客観的に振り返ると、決して見てはいけない真実・自己欺瞞が見えてきて、慣れない土地という環境も作用し、精神が極限状況まで追い込まれていきます。そして最後にジェーンはこれからの人生を大きく左右する瞬間を迎えるのですが、この選択の瞬間にかけるアガサの描写がヤバいです。この小説そんじょそこらのホラー小説よりももっと怖いサイコスリラーです。徹底的に人間の心の問題を扱ったこの作品で、アガサがミステリーの女王だけではなく文学の女王であることを証明しています。この小説、主人公ジョーンと同じ専業主婦は絶対に読んではいけません。かなりの割合で精神に大ダメージを与える危険性がある実に恐ろしい小説なので取扱い要注意です(レビューはコチラ)。
以上が2013年版のブックレビューになります。例年に比べると作品数が少ないですが、2013年もここで紹介した本を含めて素晴らしい本に出会えて幸せでした。後は仕事関係の本を読むことが多くなってしまい、趣味として読書に費やせる時間が少なくなってしまったのが残念で仕方ありません。2014年は少し時間のやりくりを上手くして、一冊でも多く良い本を読めるように頑張りたいと思います。最後に素晴らしい本との出会いに感謝し、一言感想を。
読書ってやっぱり最高!!