「おめでとうございます!」
福助人形のような裃めいた衣装をまとったそいつが言った。
「今日はとてもいい日です。一年のはじまりにふさわしい幕開きですよ。ほら、聞こえますか、小鳥のさえずり。風の音。木の葉が揺れるざわめき。今日のお天気にぴったりの素晴らしい情景ではないですか!」
にこにこしながら続けるそいつの言葉をきいていると、とてものどかな気持ちになってくる。
このところ数年の記憶ではたいてい元旦は晴天であったかいのだが、仮に今日がそのような天気のいい元旦でなかったとしても、やつの言葉を聞いていると、内容に御問題がないように思えてくる。
「さて、このようなはじまりで迎えたのですから、今年はまたあなたにとって素晴らしくいい一年になりますよ! 一年の計は元旦にありというではありませんか!」
そいつはますますにこやかに、そして饒舌になっていく。
「だめですよ、経済が低迷してるとか、アベノなんとかがどうかなんて、あるいは九年のあなた自身の境遇がどうだったかなんてことばかり考えていては。そうじゃないんです。いい一年ははじまったばかりなんです。」
わかっている。奴は毎年同じようなことを言う。
幸せはひとつじゃない、人の数だけあるんだ、とか、幸せは自分自身でつくるものだ、とか。
そんな宗教がかった説教を生半可信じてなんかいられないよ、いままで毎年そう思って聞き流してきたのだけれども、その結果が去年までのようなことだ。だから私はすべてを変えようと決心した。
そうだ、まずはこいつも言っていることをすべて鵜呑みにするんだ。理屈じゃない。
「幸せを信じる者が幸せ」
いいじゃないか、それで。
「自分は幸せだと信じたそのときから、あなたは幸せになる」
全くその通りだ! そう信じよう。
改めてそう決意の念を思い浮かべながら知らず大きく頷いたとき、そいつがまた言った。
おめでとうございます!
これで今年もあなたは大丈夫!
ほんとうにおめでとう!
了
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