12月第3週に読んだ本(まとめ)
第四百二十五話_short 全体、止まれ
「日村君、ちょっと」
部長に呼ばれて会議室に行くと、外辺留須部長がニコニコしながら言った。
「君、来月から倉庫に転属だよ」
は? 倉庫? 倉庫と言えば社内では収容所と呼ばれているいわゆる追い出し部屋ではないか。
「部長、ちょっと待ってください。なんで私が? 私はまだ五十前なんですが」
弊社では五十五歳を過ぎると役職定年はおろか、もはや現役からはじき出されて倉庫番とか総務などに配属され、もはや退職を待つばかりとされてしまう。だが私は来月五十になるが、まだ五年の猶予があるはずだ。
「どうしてなんですか? 私が何かヘマでもしましたか?」
「あのな、今年度から五十歳に繰り下がったんだよ」
そ、そんな。なんでそんなことに?
「それはおかしいではないですか、一方的に。部長は黙って受け入れたんですか?」
「ああ、火寅社長が決めたことだからな。それに、今年度からは湯田谷地区の出身者も退職勧告することになった」
部長はまるで他人事のようにそう言った。
「な、なんですか、それは? おかしいじゃないですか!」
「そうかね? なんかおかしいか? ああ、そうだ、ひとついい話がある。もし君にその期があるなら、その湯田谷地区出身者を社内から見つけて退職勧告する湯田谷対策本部に行ってもらってもいいんだがね。倉庫よりはやりがいがあるかもしれないよ」
「湯田谷対策本部? そ、そんなものまでできたんですか?」
「どうかね、私はお勧めするよ」
日村はしばし考えて返事をした。
「わ、わかりました。是非その対策本部に行かせてください」
翌月から湯田谷対策本部に移った 日村は、ここで頑張らねば収容所行きだと恐れたのか積極的にバンバン働いた。俗に言う湯田狩りの始まりだ。湯田谷出身者が次々と駆り出され、倉庫送り、リストラ、早期退職、はては派遣社員まで切り捨てられていったのだ。
「それで?」
その頃のことを日村に訊ねてみた。
「それで、その切り捨てられた社員たちはどうなりました?」
いまは自身も倉庫で働いている日村が答えた。
「それでって……みんな不承不承辞めていきましたよ」
「辞めて、どうなったんです?」
「さぁ……退職後のことはさっぱり……わかりません」
「辞めさせられた人たちの生活はどうなりました?」
「そんなこと知りませんよ。会社がそうさせただけなんですから。私の責任じゃありません」
日村はもうすぐ五十五歳になるそうだが、まもなく早期退職するそうだ。
那智巣というとある企業の中で起きたごく普通の出来事である。
了
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『僕は小説が書けない』
内容(「BOOK」データベースより)中学・高校あたりを舞台にした青春小説を得意とする2人の作家による連作。角川の文芸誌『野生時代』に連載され、中村航と中田永一が交互に執筆して1つの長編として紡いでいったものだ。ずっと昔にブログでも述べたことがあるが、中村航は僕の高校の後輩だが、登場する主人公が優男すぎ、作風全体を通じても繊細さが際立ち、叩いたら壊れてしまいそうなストーリーが多くて、力強さに欠けるところを嫌ってあまり作品を読んだことがない。一方の中田永一の方は、このペンネームでの発表作品がそもそも少ないので判断いたしかねるところがあるが、「乙一」のペンネームでの作品とも共通して、ミステリー的要素が各作品の中に脈々と息づいており、ちょっと気を緩めると結末のどんでん返しに向けて張られた伏線を見落とすこともある。 この2人がコラボするとどんな作品になるか。しかも、毎月交互に書いていくのだから、相手の担当月の作品の展開が読めないわけで、伏線を散りばめておくというのにも制約がありそうだし、中田作品の主人公は中村作品のそれに比べたらまだ芯の強さが垣間見えるところがあり、2人が同じ主人公を描いていても、その人物像にブレが生じるかもしれない。 いちばんの関心事は、作者が交替する場面がどこか、交替することによってお互いの作風の良いところがどのように生きてくるのかという点だった。でも、結果的に読み終わってみると、そうした作者交替を匂わせる箇所は簡単に特定できなかったし(多分、1行開けられていた箇所で作者交替があったと思われるが)、人物像のブレもほとんど感じることもなく、作品として楽しむことができた。さすがはプロの作家だと思う。ただ、さすがに文中いたるところに伏線を散りばめるというわけにはいかなかったのか、結末に向けてもあまり大きなどんでん返しというのはなかった。高校卒業してから年数も経っている筈のOBが今でも高校の部活動に頻繁に顔を出しているという時点で、何かあるぞと読めてしまったので、展開にあまり意外感はない。2人の作家による連作とはいえ、僕個人の印象としては中田永一の元々持っている作風に近い作品に仕上がっているという印象。 高校を舞台にした青春小説なので、オジサンがコメントするのもおこがましい。もっともっと若い人に読んで欲しいと思うが、この作品を読んでて思い出したのは、そういえば僕も高校時代に小説書いてたなということだった。 1年の時には現代国語の授業で、クラス全員が毎回交替で、授業の最初の15分ほどで、書いた作文の朗読をやらされていたし、2年の春の選抜甲子園大会での伊東昭光を擁する新鋭・帝京高校(当時はね)の活躍、決勝での高知商・中西と伊東の息詰まる投手戦、そして延長戦でのあっけない幕切れ―――そういうのに感化されて、高校野球部を舞台にした小説を書こうと試みたのである。2年の春から、3年の夏休みにかけてのことだ。 受験勉強に本格突入する前にやってた余興だが、大学ノートに書き溜めた小説はノート3冊ほどにも及んだ。そして、残念ながら高校卒業して上京する前日、部屋の整理をする際に、恥ずかしくて家の畑で燃やしてしまった。今にして思うとなんとももったいない。
生まれながらになぜか不幸を引き寄せてしまう光太郎。引っ込み思案で心を開くことができず、親しい友人もいない。血のつながりのない父親との関係をはじめ、家族との距離感にも悩んでいる。高校に入学した光太郎は、先輩・七瀬の勧誘により廃部寸前の文芸部に入ることに。実は光太郎は中学生のとき、小説を書こうとして途中で挫折した経験があった。個性的な先輩たちや強烈な個性のOBふたりに振り回されながら、光太郎は自分自身の物語を探しはじめる。かつてない青春小説。
流星ワゴン 重松清著
お前の番だ! 170
万城目学氏がまたまた直木賞候補に! 今回で何回目?
今日届いた本などは
【Amazon co.jp限定】美しい彼 書き下ろしショートストーリー付き (キャラ文庫)
- 作者: 凪良ゆう
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2014/12/19
- メディア: 文庫
クローバー・リーフをもう一杯
12/20発売ノベルピックアップ
【Amazon.co.jp限定】フォルティッシモ (1) 特製ブロマイド ♯003 付 (シルフコミックス)
- 作者: ハラダサヤカ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2014/12/19
- メディア: コミック
神様は突然やってくる2 - 少女の願いと記憶の欠片 (C・NovelsFantasia て 1-14)
- 作者: 天堂 里砂
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/12/19
- メディア: 新書
鴉龍天晴(がりょうてんせい) (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
- 作者: 神々廻楽市
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/12/18
- メディア: 単行本
vN (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5018)
- 作者: マデリン・アシュビー
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/12/19
- メディア: 新書
12/20発売文庫ピックアップ
ソード・ワールド2.0リプレイ 千竜と刃の革命 (2) Breakout (富士見ドラゴンブック)
- 作者: ベーテ・有理・黒崎
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/富士見書房
- 発売日: 2014/12/20
- メディア: 文庫
グランクレスト・リプレイ ライブ・ファクトリー (2) ぼっちな君主の新世界 (富士見ドラゴンブック)
- 作者: 重信 康
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/富士見書房
- 発売日: 2014/12/20
- メディア: 文庫
対魔導学園35試験小隊 (9) 異端同盟 (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: 柳実 冬貴
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/富士見書房
- 発売日: 2014/12/20
- メディア: 文庫
HP1からはじめる異世界無双 (1) (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: サカモト666
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/富士見書房
- 発売日: 2014/12/20
- メディア: 文庫
軍オタが魔法世界に転生したら、現代兵器で軍隊ハーレムを作っちゃいました!? (2) (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: 明鏡 シスイ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/富士見書房
- 発売日: 2014/12/20
- メディア: 文庫
俺と彼女が下僕で奴隷で主従契約 (4) (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: なめこ印
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/富士見書房
- 発売日: 2014/12/20
- メディア: 文庫
デート・ア・ライブ アンコール (3) (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: 橘 公司
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/富士見書房
- 発売日: 2014/12/20
- メディア: 文庫
女の子に夢を見てはいけません! (2) (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: 恵比須 清司
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/富士見書房
- 発売日: 2014/12/20
- メディア: 文庫
6年半も
302−30. 【読書感想文】改革に完成形なし!〜「未完の流通革命 大丸松坂屋、再生の25年」#感想部
(年間50冊の進捗 50冊/365日×354日目(12月20日)ー29冊目=▲18.493冊)#mhks(本)
- 作者: 奥田 務
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2014/10/30
- メディア: 単行本
- ・日本経済が高度成長期から成熟した低成長の時代に移行していく中で起きた社会や消費の変化と、その変化に対応しようともがいてきた私や大丸、J・フロントリテイリングの姿を書き残すことで、企業が永続するために必要な条件や企業や組織を改革する際の要諦、さらには個人にとっての仕事の意義などを読み取っていただけるのではないかと思い、筆を執りました。(p6)
☆2度ほどセミナーや講演会でお話をお伺いしたことがありますが、奥田さんの話し方は、どこか「学者」風で、まるで大学で講義を受けているような感じがしました。百貨店業界では、「宇宙人」「コストカッター」と呼ばれた方の「真意」は?
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・あらためてアメリカという国のすごさを感じました。そのすごさを端的に言えば、大学で勉強したことが実際に企業の運営でも使われているということです。(中略)授業が実践的なのは、教授のほとんどが実務家であるということが大きく影響していると思います。(p27)
☆確かに、自分も大学で学んだことで、社会の仕事に役立ったことは無かったと思います。高校までとは違い自分で「テーマ」を決めて勉強するということは良かったと思います。
・早朝連絡会のルールは三つしかありません。
・一つ目は全員に思い切って議論をさせること。
・二つ目のルールは、トップの下した最終決断に必ず従ってもらうこと。
・三つ目のルールは、会議の場で即断即決することです。トップの判断が必要な案件は、その場ですぐに決めていく。どうしてもすぐに決められないことは、期限を決めて決断することにしました(p108-p111)
☆行った「決断」が、正しいかどうかは分からない。それでも、物事を前へ進めなければならないのが「トップ」なんですね。
・私がこの営業改革を通して実現したかったのは、第一義的にはローコスト経営の実現です。けれどそれは何も人を減らし、コストを省くことばかりではありません。無駄な業務があれば廃止しますが、もう一度新しい目からお客様の視点から百貨店ビジネスを抜本的に見直して、お客さまのニーズがある部分には新しく人を充てていくという前向きの改革です(p160)
☆MDの伊勢丹、優良顧客の三越、高島屋。大衆の西武、そごう。そして、コストカットのJFR…。悪い部分だけが世間で評価されがちです。ローコストの本当の目的は、適正な資源の配分にあったのですね。
・改革を実現するために経営者が果たすべき最大の役割は、言い続け、行動し続けることです。(p178)
・「一燈を堤げて暗夜を行く。暗夜を憂うることなかれ。ただ一燈を頼め」
幕末の儒学者、佐藤一斎の語録『言志四録』にこうした一節があります。
・経営者は決断を下し続けなければなりません。そのためには、「一燈」を信じて進むしかありませんでした。「一燈」とは「高い志」のことではないでしょうか。どんなに暗く、先の見えない状況でも、自らの高い志を信じて信念を貫き通さねばなりません。(p278-279)
☆「一燈」が、どんなに薄暗くとも「高い志」であれば、みんなが付いてくる。ギラギラと明るくとも、欲まみれでは、誰も従わないのでしょうね。
・改革は永遠であり、立ち止まることは許されません。常に「未完」の地図を描き続けることが経営です。(p283)
☆読み終えて:商売やサービスに「完成形」なんてあり得ない!
日々、商況は変わり、今日のベストは明日にも陳腐化してしまうから。ましてやネット社会の現在は、社会や顧客の価値観も、あっという間に変わってしまう。
だからこそ、いつまでも「変わらない」本物を扱うのが、百貨店の役割。
もちろん、新しいものを提案し続けるのも、同じぐらい求められている。
新しくて、本物。ーー作る数も、売れる数も少ないからこそ、イオンやイトーヨーカドーやコンビニではない、百貨店ができることだと思います。
そしてそれこそが「コストカット」よりも、百貨店マンであったときの奥田さんがやりたかったことになのではないでしょうか。
モノやサービスを売る人にとって、何よりもうれしいのは、お客さんからの感謝の気持ちですから!
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
がんが自然に治る生き方
がんが自然に治る生き方――余命宣告から「劇的な寛解」に至った人たちが実践している9つのこと
- 作者: ケリー・ターナー
- 出版社/メーカー: プレジデント社
- 発売日: 2014/11/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
古びた本
作者のイメージが変わる【ザ・万歩計】
■ヒトコト感想
作者のエッセイは面白い。「ザ・万遊記」では、あるテーマに沿ったエッセイが描かれていた。本作は雑多なエッセイだが、作者の人となりがよくわかり、ファンにはたまらないだろう。印象的なのは、作者は学生時代、頻繁に海外へ貧乏旅行に行っていたということだ。
作家の印象はといえば、インドアで一年中部屋にこもってカリカリ文章を書いているというイメージだが、フットサルが趣味だったり、意外とアクティブなことに驚いた。貧乏旅行では、まるで「深夜特急」のように様々なアクシデントに出会う。小説作品からは感じない、作者のたくましさのようなものすら見えてくる。本作を読むことで、作者のイメージがだいぶ変わってきたのは確かだ。
■ストーリー
少年時代に大阪で阿呆の薫陶を受け、大学時代に自分探しの旅先で全財産を失い、はては作家目指して単身東京へ。ホルモーでついに無職を脱するも「御器齧り」に苛まれ、噛みまくるラジオに執筆を阻まれ、謎の名曲を夢想する日常は相変わらず。そのすべてを飄々と綴った初エッセイ集。
続きを読む
結婚する理由 (ベティ・ニールズ) R-0905
老子の幸福論
佐伯泰英『たそがれ歌麿: 新・古着屋総兵衛九巻 』
「暮らしをもっと豊かにする七十二候の楽しみ」小泉さよ
最初から最後まで
山口周の「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」を読みました。イノベーションというと、個人レベルでそういう素質があるのかどうかという点に意識がいきがちですが、そうではなく、大切なのは「組織」だ、ということですね。イノベーションを起こしている組織とそうでない組織とではどこが違うのか・・・。前半の、権力格差指標と航空機事故の関係とか、ケネディ大統領の議論の進め方とか、興味深い話がいろいろと紹介されています。イノベーションというよりは、リスク管理とか組織運営の話だなぁと思って読んでいました。そういう意味で、「おわりに」も楽しく読めました。さて、ではどうすればいいのか・・・いくつか基本が示されていると同時に、日本独特の「空気」を可視化するとか、集合的知性を活用するとか面白いアイデアもあって、最初から最後まで興味深い一冊でした。