「いったいぜんたい、どうなってるんです?」
品物の納入が遅れると伝えに来た零細下請け会社の社長遅礼に向かって金田は大きな声でいきまいた。
「いえ、だから、申し上げているのは、原材料業者からの納入が大幅に遅れてしまいましてね、それが生産にも影響を及ぼしてしまったんですよ」
奥礼はひたすら頭を下げながら謝ったが、金田はいっそう声を荒げた。
「そ、そんなことウチには関係ないじゃあないか、そっちの問題だろう? それにそうならもっと早く言いに来ればいいじゃないか!」
金田の怒りはますます膨れ上がる。自分のどなり声によってさらに怒りを増長してしまうタイプなのだ。
「いえね、なんとか間に合わせられるのではないかと、工場が一丸になって頑張っていたんですよう。ですが、納入日の今朝になってやっぱり間に合わないことが分かったわけで……」
「な、なんて生産体制なんだ! 工程管理ができていないんじゃあないか?」
痛いところを指摘された遅礼社長、今度は逆切れしはじめた。
「ちょ、ちょっと、なんですかそれは。ウチだって頑張ってるって言ったじゃないですか。言わないでおこうと思ったんですけど、なんなんですか、あれは。あの製品は」
「なんですかって何がだ? ウチが開発したものをバカにするのか?」
「だってそうじゃないですか。キンタマントなんてナメた名前」
「な、なにがナメた名前だっ! キンタマントは我が社の命運を背負った製品なんだぞ!」
「命運だかミンミンだかしらないが、キンタマントだなんて、もっとましな名前があるだろうが!」
「なにがだっ! 俺の名前の金田万吉からとった言い名前じゃないか。それにマント型のコートだぞ! キンタマントだ!」
「あんたの名前なぞよくつけたもんだ。キンタマントなんて嫌らしい名前、あんたそのもんじゃないか」
「よくもキンタマントをバカにしたな! キンタマントが、キンタマントが大ヒットしても、もうあんたのところでは作らないぞ! 他所で作って大儲けしてやる! キンタマントの仕事くれったって、もうそうはいかんぞ!」
「いらんわい! キンタマントなんて汚い仕事。 そんなもんお前のキ○玉にでも巻きつけておけ!」
「よくもおまえは俺のキンタマントを……キンタマントを……好き放題言いおって! 俺様のキンタマントのことをもうこれ以上……」
「これ以上なんだ? キンタトンマがどうしたって?」
「キンタトンマ? 何だそれはキンタマントだ、キンタトンマじゃないっ!」
「キンタトンマキンタトンマ、やーい!」
「やめろ! キンタトンマじゃない、キンタマントだ! 言いなおせ!!」
「キンタトンマ、キンタマトンナ!」
「違う!キンタマント!」
「キンタトンマ!」
「馬鹿っ! キンタマント!」
「キンタンマンやーい!」
「もうっ! キンタ……」
必死になって真剣に怒鳴り合っている二人ではあるが、なんだかなんだなのである。
了
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