僕等は,白い壁を背にして,昨日と同じ風景を見ていた. 約束した事は,何もない. ただ,昨日と同じ場所で,昨日とは違うものを見つけようと, 探し続けた. 疲れた体にそよぐ風が,昨日と違う. きっと同じ風が吹く事はないのだと,思う. 昨日とは違うものは,とても多過ぎて, 気づけない程に,似ていた. 僕等は,言葉を交わすことは,無かった. 多くの言葉を使っても,それでも足りないと感じた時, 本当の事は伝わらないのだと,思った. 昨日と同じ風景を見ながら,その風景の一部には なりたくないと願いながら,違うことを考えた. だから,本当の事は,いつも違う先を示し, 多くの言葉の意味を変えてしまう. それが,同じ場所に立ち続ける理由になっていた. 僕等は,失うことを恐れながら空を見上げた. 遠くの雲の影に覆われながら,奪われた数と, 奪ってしまった数が合わないことを,思った. 残されたもので作られた,価値の無いそれを, 大切に運びながら,繰り返し夢を見た. 決して未来を語らない物語は,時折,悪夢を見せる. その中で,忘れない程の出来事があったとしても, 雲の影が消えてしまうように, それも忘れてしまったことを,思い出す. 僕等は,手を伸ばせば届く程,近くにいたと思う. 確認した事は,一度もない. ただ,昨日と同じ場所で,昨日と同じ距離で,昨日と違う今日を 探し続けた. 少しの時間では変わらない多くのものに, 昨日とは異なる多くの世界に, それは,とても素敵なことだと 気づけない所に,僕等は,いた.
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