<裏表紙あらすじ> 富豪の屋敷から名画が盗まれた。しかし屋敷内に作られた迷路の中に絵を残し、犯人だけが消失した!? (「壁抜け男の謎」) 小説家に監禁された評論家。かつては酷評していたが、最近は誉めていたのに。なぜこんなことを? (「屈辱のかたち」) 犯人当て小説から、敬愛する作家へのオマージュ、近未来小説、官能的な物語まで。色彩感豊かな「16」の物語が貴方を待つ。有栖川有栖の魅力を満載した、傑作作品集! 有栖川有栖のノンシリーズ短編集。 こういうタイプの短編集は、「ジュリエットの悲鳴」 (角川文庫)以来とのことです。 手元にある文庫本の帯がいいです。 「目眩く16の物語 アリス・ワールドのカオスを堪能せよ。」 これは、作者によるあとがきの 「常識はずれにごちゃごちゃした本多が、その混沌をお楽しみいただけただろうか。」 というのを意識したものですが、本当にバラエティに富んでいます。 有栖川有栖といえば、本格ミステリ、しかもロジック重視の作品で知られているのですが、SFっぽいのも、ホラーっぽいのもありますし、最後の作品「恋人」は、なんと官能小説!! なにしろさほど厚くない本に16作も詰め込まれているので、ミステリっぽい作品は、いつもの論理を楽しむというには短すぎて物足りない感じもありますが、そういうのは火村シリーズや江神シリーズに任せておいて、いろんな有栖川有栖を楽しめばいいんですね。 個人的には、鮎川哲也のパロディ(?)「下り『あさかぜ』」の時刻表トリックには悶絶、いや、感嘆。 「猛虎館の惨劇」の馬鹿馬鹿しさもいい。 横溝正史の「獄門島」 (角川文庫)を下敷きにした「ミタテサツジン」もふざけている中にも、 「こんなもの、見立てとは呼ばんでしょう。ただ小説の猿真似をしただけじゃ。見立てというのは、もとあったものイメージを借りて新しいイメージを創りだすことやのに、この娘らの死に様はそうなっとらん。子供の飯事(ままごと)みたいに、ただ形だけをコピーしとる。」 なんて鋭いセリフがあって、楽しい。 バラエティに富んだ作品群から、お気に入りを見つけてもらえてばいいな、と思います。
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