光が生み出す影は、太古の人間にとって不思議で興味深い現象であったに違いない。それは影を用いたアートやパフォーマンスが紀元前からあったということからも想像できる。
分身のように同じ動きを見せる影。光源との位置や距離によって自在に変化する影。
パフォーマーはそうした現象を巧みに操って、いっそう不思議な幻想世界を生み出してきた。
いま私の足元にも等身大の影が存在している。私が動くと影も動く。影が止まると私も止まる。
背に受けた太陽が影を作っていると思っていたが、私の影はそうではないらしい。影とともに歩いて太陽が遮られた屋内に入ってもなを影はついてきているのだ。
そんなバカな!
そう思ってもう一度日向に出てみようと思うが、体が動かない。影が進む方向に操られるように体がついていく。
いまや私は影を操っているのではなく、影に操られているのだと気がついた。
了