『国税記者 実録マルサの世界』 田中周紀(ちかき) 2011/12
著者は記者。共同通信からテレ朝へ。 国税のしくみと実際の脱税事件例についての本。
国税局査察部、いわゆる「マルサ」の内定調査する部門を、情報の「情」から「ナサケ」と呼び、強制調査する部門は実施の「実」から「ミノリ」と呼ばれる。「マルサ」は有名になりすぎたので、最近は「6階」が査察部を指す隠語になっている。旧庁舎で6階に査察部があったためだ。
全国の国税局査察部は、例年200件前後の強制調査に着手して150~160件を検察庁に告発している。
「申告漏れ」は意図的な税逃れも、単なる経理上のミスも両方含まれる。「所得隠し」は申告漏れのうち重加算税が課せられる部分を指す。報道で「脱税」という言葉が使われるのは、査察部が地検に告発した事案に限定される。査察部が扱うのは所得隠し1億円を超える事案のみ。
国税局は、「総務部」「課税第一部」「課税第二部」「調査部」「徴収部」「査察部」から成る。東京・名古屋・大阪以外の国税局は調査と査察を一つにして「調査査察部」としている。
査察部が強制調査する対象は個人か中小企業がほとんど。調査部が管轄する資本金1億円以上の大企業を査察することは稀だ。大企業は基本的に経理がしっかりしていて、社長が勝手に経理の内容をいじれないからだ。特に狙われやすいのが、急激に業績が拡大した中小企業。
告発に至らないケースは、金額が1億円に届かなかった場合や、嫌疑者が告発前に死亡する場合など。調査内容は所轄の税務署に引き継がれる。
新聞やテレビで報道される脱税関連の個別の事案は、すべて記者が独自に取材して発掘したもの。国税庁記者クラブで個別の事案についてのレクチャーは全くない。報道機関からは「沈黙の艦隊」と呼ばれる。
国税庁記者クラブには「国税庁の調査が終わっていない事案を報道してはならない」との不文律がある。報道で証拠隠滅が起きるのを避けるためだ。しかしどの事案がどこまで進んでいるかというレクチャーはないため、たまにスッパ抜き記事が出て記者クラブに出入り禁止となることがある。
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