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もうじやのたわむれ 325

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 娑婆交流協会は白い五階建てのビルの中にあるのでありました。それは高層の建造物ではないし、真新しいと云うわけでもないのでありますが、周りに建つ建物が平屋か、高くても三階建て程度で、如何にも耐用年数を遥かに超えた感じの、外装も薄汚れた儘放ったらかしと云った感じなので、それでも他を圧する偉容と云えなくもないのでありました。  我々を乗せたマイクロバスがそのビルの玄関前に静かに横づけされると、運転をしていた隊員と運転席後ろに乗っていた防衛隊員二名が、きびきびとした動きで前扉からバスを降りて、ベルトに吊るした拳銃ホルダーに右手を添えて、出入口を万が一の賊の襲撃から二鬼で守備するように立ち、周囲を睥睨しながら隙のない警戒態勢をとるのでありました。 「ではどうぞ」  バスに残った段古守大尉は我々に視線を向けて、柔らかな手つきでバスを降りるよう促すのでありました。先ず逸茂厳記氏が段古守大尉の横をすり抜けるようにして地に足を下ろし、その後に補佐官筆頭、そのまた後に拙生、最後に発羅津玄喜氏と続くのでありました。全員が下車を完了すると我々は建物の玄関を入ってすぐ脇にある階段を、バスを降りた順番に、段古守大尉の先導と他の二鬼の防衛隊員の後勁で三階まで上るのでありました。  このビルは雑居ビルで色々な団体や会社が入居しているようでありますが、三階は総て娑婆交流協会が使用しているのでありました。階段踊り場のすぐ横にある、娑婆交流協会受付、と表札が出ているドアを段古守大尉が開けて、後に続く我々を中に入れてから、防衛隊員三鬼も中に立ち入るのでありました。その内二鬼が、中で横隊に広がった我々の左右端に立ち、段古守大尉は、それが受付であろうと思しき、入り口に向かって据えてある机を前に座っている、若い女性の処に歩み寄る補佐官筆頭の脇につき従うのでありました。  補佐官筆頭は受付の女性と数語何やら話しを交わして、すぐに来意が通じようで、女性に軽くお辞儀してから我々の方の戻ってくるのでありました。 「娑婆交流協会の大岩会長が直々に、この部屋までお迎えにいらっしゃるようですので、そこで座って待っていましょう」 補佐官筆頭が出入口扉横の長椅子を指差すのでありました。 「大岩会長と云うと、前に私の閻魔大王官の一回目の審理の折に話しに出た、公会堂四谷ワイ談の、下ネタ好きでなかなか捌けた感じの魅力的な、あのお婆ちゃんですかな?」  拙生が長椅子に腰かけながら訊くのでありました。 「そうです。娑婆では、新宿だったか池袋だったか上野だったかにお住まいで、四谷公会堂で落語を、特に怪談噺を聴く事を無上の趣味とされていたと云う、あのお婆ちゃんです」  補佐官筆頭が拙生の横に着席するのでありました。長椅子は三人がけ、いや三鬼、或いは三霊がけのものだったから、拙生と補佐官筆頭以外は立った儘なのでありました。まあ、我々だけ座るのは多少心苦しくはありましたが、他の若い鬼達の遠慮と受け取る事にするのでありました。どうせ結果的に、我々が席を勧められるのでありましょうから。 「会長が直々にこの部屋までお出迎えにいらっしゃると云う事は、補佐官さんに対する相当の敬意の表明であると云う風に受け取るべきでしょうかね?」 「まあ、私に、と云うよりは、亡者様に対する敬意からですよ」 (続)

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