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『透明人間』

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透明人間 [完訳版] (偕成社文庫)

透明人間 [完訳版] (偕成社文庫)

  • 作者: H.G. ウェルズ
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2003/06/19
  • メディア: 新書
内容紹介
真冬のアイピング村にこつぜんとあらわれたのは、けっして顔を見せない奇妙な男。男は村に宿をとり、部屋にこもってあやしげな実験をはじめた。なにをかくそうこの男は、みずからの実験の結果、からだを透明にすることに成功した透明人間だったのだ。悪意と憎しみにみちた透明人間が暴れだしたとき、ひとびとは見えない恐怖におびえる。やがてあきらかになる透明人間の哀れな過去とは? 科学文明を風刺したSF作家ウェルズの傑作。
先月から何となくはじめた、「少年時代に読まなかった日本と世界の名作」を今さら読むというシリーズ。『野菊の墓』、『十五少年漂流記』に続く第3弾は、H.G.ウェルズの『透明人間』を取り上げることにした。 体が透明になったら、女子更衣室とか好きだった女の子の部屋に忍び込めるとか、青春時代はそういうどうしょうもないことを考えたりしていたわけです。まあ、別に男子の僕には触れることができない楽しいことばかりではなく、スーパーでレジから現金とか食べ物とかをくすねることができるとか、テストの問題を前日までにのぞき見ることができるとか、常識的には犯罪行為でしかないことまで、できるなあと考えていたのです。でも、その前提は、いったん消える体も、時間を置けばまた見えるようになるということ。そうでないと、手に入れたお金は使うことができないし、肝心のテスト自体が受けられない。大好きな彼女の弱みやツボを突いて自分に振り向かせることができたとしても、今度はデートすることができない。それ以前に、告白するのにも苦労しそうだ。 そう、物事をドラえもんやパーマンのように単純に見ていると、透明人間というのは一時的に姿を消せる人のことを指すと安易に考えたくなる。でも、透明人間のアイデアを初めて文章に落としたウェルズが考えたのは、一生普通の人間に戻れない、恒久的な透明人間のコンセプトなのである。 そうすると、透明人間になれることでいいこともあるけど、実はデメリットも結構大きいというのが本書を読むとよくわかる。冬場に何か悪さをしようと思っても、裸で外に出れば寒いに決まっており、寒さを防ぐために衣服を身にまとっても、肝心の顔のように隠せない部位には包帯を巻いて目にはサングラスを装着し、帽子は深々とかぶるといったコスチュームにせざるを得ない。透明でいるときと違ってやたらと目立つ格好をすることになる。また、食べ物を口から摂って内臓に入っていっても消えないということは、口から入った食べ物が体内で消化されて、下の口から外に放出されるところまで、人の体内での変化のプロセスが、透明の体を通してよく見えるという状況だということになる。これは想像するだけでも恐ろしい(笑)。 そういう、透明人間が陥るトラブルというのが、どこかお間抜けな感じがして、読んでいて怖さよりも滑稽さを感じた。こうした当たり前といえば当たり前のことを気付かせてくれた古典SFである。こういうのが、19世紀の終わりに既に世に出ていたということに驚かされる。さすがは「SF小説の父」ともいわれる大作家の作品だ。

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