「今、この都は地脈の乱れのため、先達の法力によって封じ込まれていた怨霊、魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)がぞろぞろと姿を現し、悪さを始めております。 すでに我が一族の者が不幸に見舞われておるようですが、事はこれだけでは収まりますまい。 地脈の乱れを放置しておけば、いずれ不幸の渦(うず)は都の外まで際限もなく広がって行くことでしょう。 その前に、なんとか、封じ込めねばなりませぬ。 じゃが、すでに、この地の怨霊の数はおびただしいものとなっております。 ですから、これを押さえ込むには、特別な力が必要なのです」
「地脈が乱れるのには……何か理由があると思うのですが、それは、いったい何だと思われるのですか?」
それは、佑太が当初から疑問に思っていたことだった。
「それは、この地に主(あるじ)がおられぬようになったからです」
「主? 主とは、どなたのことですか?」
佑太は訊いた。
「主?……この都の主と言えば、この国で最も高貴な方、つまりは天皇様。 その天皇様が東の地に行幸されて、すでに百数十年。 要(かなめ)である、主無き都は、四神の守りも弱まり、そこに地脈の乱れが起きてしまったのです。 そして、それに乗じて、特別に念の強い怨霊が姿を現してきた。 そういうことだと思いまする」
「その怨霊というのは、もしかして、関ヶ原の戦いで敗れた武将のことですか?」
佑太は訊いた。
「おそらくは。 そして、まだ、はっきりとは分かりませんが、その頭目は石田三成ではないかと」
高台院は、暗い顔で答えた。
「では、どうすれば、地脈の乱れは鎮まるのですか?」
「さあ、それは、私には分からぬこと。 ただ、今ここに、貴方がたが見えられたということは、貴方がたこそ、その地脈の乱れを鎮める役目を授かりし方々かと、私には思えまする。 そして、私にできますことは……ただ我が思いを込めた言霊を貴方がたに託す、ただそれだけです。 さあ、これを持って、西に向かい、都最古の古刹を訪ねなされ。 そこは渡来の者の建てたる寺。 そこに祭られし仏の使者を拝みなされ。 貴方がたには黄金の龍が付いておる。 必ずや道は開けるでしょう。 さあ、行きなされ」
言い終えた高台院の顔には、なぜか、笑みが浮かんでいた。
二人が、しばし高台院の言葉をかみしめていると、その姿は徐々に霞んでいき、霊屋の中に吸い込まれるように消えてしまった。 その直後、佑太は、頭上に何かを感じて顔を上げた。 すると、眩いほどの黄金の光が見えた。 それは見る間に大きくなって行き、最後は視界が無くなった。
続く
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