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『騎手の一分』

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騎手の一分――競馬界の真実 (講談社現代新書)

騎手の一分――競馬界の真実 (講談社現代新書)

  • 作者: 藤田 伸二
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/05/17
  • メディア: 新書
内容紹介
プロの世界で長く生きてきたのだから、いつ、どこで、どういう形で引退しようかという「引き際」は、この2~3年、常に頭の片隅にあった。(中略)これまで競馬界を支えてきたジョッキーたちが、実は2012年だけで23人もターフを去っている。これは過去15年でもっとも多い数字だという。1982年には252人いた騎手が、いまや半分近くにまで激減している。厳しい試験をくぐり抜けて、ようやく憧れの騎手になったはずなのに、なぜ、次から次へとこうもみんな、騎手を辞めてしまうのか。(序章より)

2012年秋のマイルチャンピオンシップ。レースの後、勝利騎手インタビューが行われたウイナーズサークルの中央には、久しぶりの笑顔があった。ユタカさん(武豊騎手)が、約2年ぶりにG1を勝ったんだ。「お久しぶりです」 俺はもう家に帰っていたから、そのインタビューはテレビで見たんだけど、何だかとてもさびしく感じた。あの武豊をこんな状態にしたのは誰なのか――。(第4章より)

ダービー、宝塚記念、有馬記念など、数々のG1を制してきた藤田伸二が明かす、「伝えておきたいこと」。
先週大きかった報道は、1991年に皐月賞、ダービーの二冠馬になったトウカイテイオーの死亡だ。僕がテレビの競馬中継をよく見るようになったきっかけはオグリキャップのラストレースだった1990年末の有馬記念だが、有馬を勝ってオグリが引退した後、しばらく注目してよくテレビ中継でよく見ていたのはトウカイテイオーとイブキマイカグラという2頭の三歳馬のライバル関係だった。以後テイオーが出走したレースは全部見ているが、とりわけ感動的なのは1年間の休養明けで出走した1993年12月の有馬記念。今動画サイトで見ると、出走馬にビワハヤヒデ、ウイニングチケット、レガシーワールド、メジロパーマー、ナイスネイチャ、ライスシャワー等が含まれた超豪華メンバーの中で、最後はテイオーがビワハヤヒデを差し切っている。日本競馬史上最も印象に残るレースの1つだと言える。
出走馬が豪華であるばかりでなく、騎手の着る勝負服もカラフルだった。同じデザインの勝負服を着ている騎手はおらず、勝負服だけでどの馬がどの位置にいるのかが僕たちでもわかった。そして、テイオーに騎乗していたのは田原成貴騎手。引退してからいろいろあった人だが、騎乗スタイルには華があった。 翻って今の競馬界。僕は1995年以降海外駐在を3回経験していて競馬を見るのにも中断期間があり、1競走馬の成長プロセスをゆっくり見守ったりもしていないので、なかなか注意して見る機会もないのだが、なんだか面白くないなぁと感じる。以前だって武豊騎手が一人勝ちしていた頃は面白くないなぁと思ったりもしたが、武騎手の騎乗する最有力馬が対抗馬や思わぬ伏兵に敗れるシーンを期待してよく中継を見ていた。でも、今はそんな気にもあまりなれない。 同じような勝負服の騎手の騎乗の馬ばかりが勝つ。特に、黒と黄色の縦縞の勝負服の騎手がまたがる馬が1レースに何頭も出走している。これは要するに馬主が同じ馬が何頭もいるということで、そんな馬がチームプレイをやって連対したり、確実に1頭を勝たせたりということが行なわれている。黒と黄色の縦縞の勝負服が勝つと、「またか…」とがっかりしてしまう。 ついでに言うと、岩田康誠騎手ばかりが有力馬に騎乗している印象がある。岩田騎手の騎乗スタイルはあまり評判が良くなくて、ヤフーコメントではいつも叩かれているが、僕のような素人が見ても岩田騎手の騎乗はどうかなと思うことが多いが、それでも騎乗依頼が来るということは、特定の騎手と馬主の間で、特別な関係があるのではないかと疑いたくもなる。そして、岩田騎手や福永祐一騎手が勝つと、「またか…」とがっかりしてしまう。 さらに面白くないのは外国人騎手がやたらと騎乗していること。あの武豊騎手でも、海外遠征に行けば騎乗馬を現地で確保するのには苦労すると聞いていたのに、何で日本は外国人騎手にやたらと騎乗機会を提供しているのだろうか。外国人騎手にしてみれば、短期免許で来日して乗り代わりで騎乗馬を簡単に確保できるのだからオイシイ小遣い稼ぎになるが、そこまで騎乗して馬を育ててきた日本人騎手にしてみれば面白くもないに違いない。そうこうして何ら思い入れもないような外国人騎手が勝ってインタビューを受けているのを見ると、「またか…」という気持ちになってしまう。 そんな状況で競馬もつまらなくなったなぁと嘆いていたところに、トップジョッキーの1人だった藤田騎手の本。かなりきわどいところで競馬界の内実を暴露しており、なるほどそういうことかと合点がいった。武豊騎手が2006年以降なかなか勝てなくなったのは、ある馬主と衝突したのがきっかけであるというのは僕らでも知っている有名な話だが、そもそも根本的な原因はその前年に導入されたJRAの政策にあると指摘している。 ここまで書いてしまうと競馬界には相当いづらいのではないかと想像してしまうが、実際に藤田騎手は引退することも厭わぬと本書では明言もしており、辞める気満々の空気が伝わってくる。だからこそ、武豊や田原成貴といった1990年代をリードした騎手の美しい騎乗スタイルを高く評価する一方で、岩田騎手や福永騎手などの騎乗スタイルは名指しで手厳しく批判もしている。 ただね、本書とは全く関係がないけれど、藤田騎手と同世代の騎手の中には、平気でタバコをぷかぷか吸いながら雑誌のインタビューを受けている人もいたし、茶髪は普通だったりもしたし、いかにご本人たちが「本業の方ではやることをちゃんとやっているではないか」と強調されても、でも素行は悪そうだなと思われてしまうところもあったのではないかと思う。(岡部騎手や武騎手がそうだったとは申しません。) 不思議なもので、武豊騎手がなかなか勝てなくなったことで、逆に武騎手を応援したくなってきた。今年の凱旋門賞のオルフェーブルは誰が騎乗するのか分かりませんが、武騎手騎乗でキズナが出走するようであれば、オルフェーブルよりもキズナを応援したいと思う。

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