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小川国夫著「ヨレハ記 旧約聖書物語」を読んで

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IMG_3097.JPG 照る日曇る日第618回 作者畢生の未完の代表作 私が読んでこれほど面白いものはないと思うのはシェークスピアと新旧の聖書であり、この2つ、特に後者が西欧の宗教のみならず文学や思想にも大きな影響を及ぼしてきたことも分かるような気がする。 そんな新旧のバイブルを読んでさまざまな天啓を受け、「よーしおれもいっちょう自己流の聖書のような物語を編み出してやろう」と夢想しない作家はいないだろう。 すでに作者は新約聖書を題材とした「或る聖書」を世に送ったが、これは本作と違ってメタ・フィクションであった。ところがなんとこの「ヨレハ記」は、「旧約」の向こうを張って企画構想敢行された巨大なフィクションなのである。  作者の死によって残念ながら永久に未完の書となったこの大作がもし完成されていたとしたら、この作品は旧約に多い偽書のひとつに数えられたかもしれないし、旧約と同様の生命力を有しつつも、本家本元よりも面白い「平成版旧約物語」が誕生したかもしれない。 あるいはまた世界中の頑なな護教の徒から異議申し立てが相次いだり、時と場所によっては異端者として糾問されたに違いない。 なぜなら作者が心血を注ぎこみ、本書の主人公と目されているヨレハとその周辺の登場人物たちは、旧約に登場する様々な預言者たちに伍していささかも引けをとらない異様な存在感と輝きに満ちているからである。  作者は誠実なキリスト者作家たらんとしてみずからの頭と手と想像力を駆使して「旧約の世界」を再創造しようとのぞみ、その思いを半ば以上に達成していたのだった。未完ながらも、本書こそは作者畢生の代表作であろう。 一等賞になれなどと言われてもなんのことやらさっぱり分からんうちの耕君 蝶人


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