Quantcast
Channel: So-net blog 共通テーマ 本
Viewing all articles
Browse latest Browse all 53333

地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第26回)

$
0
0

「そうだとしたら……目撃者四人の方が見たっていう三人の武将というのは……」 「石田、安国寺、小西の三人の武将だと思うよ」 「でも、西軍方の武将が、恨みを持つとしたら……徳川に対してじゃないですか?」 「いや、西軍からしたら、徳川家康が確かに敵の総大将だったけど……徳川とはお互い覚悟の上の戦いだからね。 当時の常識を考えれば……敗軍の将が自分の運や徳の無さを嘆くのはともかく、戦って負かされた相手を恨むっていうのは筋違いだよ。 あの時代の武将たちに限って、そんな恨みを持つとは思えない。恨みを向けるとすれば、むしろ、理不尽に裏切った連中にじゃないかな」  佑太は、地縛記憶でみた、凛とした三人の武将の姿を思い出していた。 「理不尽に、裏切った連中って言ったら……たとえば、小早川秀秋とかのことですか?」 「確かに、あの人も、裏切ったひとりだけどね。 でも、彼は人物としては小物だね。もっと、大物の黒幕がいるじゃないか」 「黒幕ですか?」  杏子は首をかしげた。 「そうだ、黒幕だよ。 それが、あの戦で生じた怨念の元凶と、思うんだけどね」 「それって、いったい、誰です?」 「高台院だよ」 「高台院って、秀吉の正室だった北の政所、おねさん、ってことですか?」 「そうだよ、そのおねが黒幕だと、僕は思うね」 「おねさんが、どうして黒幕に?」 「加藤清正、福島正則を筆頭に数多くの豊臣子飼いの武将が東軍についたじゃないか。 小早川もおねの甥、彼らが豊臣政権を守ろうとした西軍につかずに、東軍についたのは、全部おねの差し金だと言う人もいるくらいさ」 「だとしたら、三人の武将の怨念の向かう先は……高台院ということに?」 「僕は、そう思うね。 昨日、唐沢さんから聞いただろう、福本洋平氏は、おねさんの兄、木下家定、つまり、小早川秀秋の実父の子孫に当たるって。 だから、この京都の地脈が乱れて吹き出した、西軍武将の怨念が、福本家に向かったとしても、不思議はないんだよ」 「じゃあ、早く地脈の乱れを鎮めないと、もっと福本一族に不幸が起こることに……」 「そういうことになるだろうね」  佑太の言葉に杏子の表情は暗くなった。  二人は正面橋からタクシーに乗り、おねが眠る高台寺へと向かった。  高台寺は京都の東山区にある臨済宗の寺であるが、高台院が夫豊臣秀吉の冥福を祈るために建てたものである。寺の名前は正式には高台寿聖禅寺、建てた高台院の名前に因むと言われている。  高台院はここ高台寺の霊屋(たまや)に眠っている。  佑太が行く先に高台寺を選んだのは、伊勢の内宮で彼が老婆から貰った守り袋に入っていた紙切れの文言のためだった。 その言葉は 『すべては豊臣の母に始まる。東へ行き、釈迦如来の下で母に会え』 である。  豊臣の母と言えばおね、高台院。 そして、高台院は京都の東にある高台寺に眠る。 また、その寺の本尊は釈迦如来である。 そのため、佑太は創建四百年を越すその寺へ行けば、地脈の乱れを鎮める手掛かりが見つかると思ったのである。                                                  続く


Viewing all articles
Browse latest Browse all 53333

Trending Articles