残りの二人の武将も、順にひとりずつ、粛々と首を刎ねられていった。 土手と橋の上の見物人たちの間からは、首が落ち血しぶきが上がる度にどよめきが上がった。 その間、ひそひそとささやく声はしても大声を出す者はなく、皆、心が冷え切ったような顔つきだった。 佑太がそんな見物人を眺めていると、またしても視野が白く濁り始め、真っ白になったと思った瞬間、目の前に、五条大橋と武士も遺体もない河原が戻っていた。 佑太は肩の力を抜くと、大きく息を吐いた。 横を見ると、毛利が佑太の顔を覗き込んでいる。 「どうかされたのですか? しばらく、意識がとんだような顔をされてましたが……」 「いえ、ちょっと、考え事を……」 佑太は誤魔化すように言った。 唐沢は佑太が何かプロファイリングをしていたのではないかと思ったようだったが、何も言わなかった。 「毛利警部、お忙しいところを、お邪魔しました。 では、僕らは、これから幾つか行ってみたいところがありますので、この辺で失礼いたします。 唐沢さん、東京に戻られる前に、もう一度お会いしましょう。 こちらからまた、連絡入れますから」 佑太はそう言うと、毛利と唐沢夫婦に向かって軽く会釈をした。 「佑太さん、さっきは、何か地縛記憶、見てたんでしょう」 橋の上に出ると、杏子が訊いた。 佑太は、ある時期から、過去に血なまぐさい事件が起きた現場で意識を集中すると、事件の光景が鮮やかに見えるようになっていた。杏子が、それを地縛記憶と名づけていたのである。 佑太は、その能力を使って東京は高松町にある高松記念公園周辺で起きた連続殺人事件の捜査と解決に、大きな役割を果たしていた。 しかし、その地縛記憶のことは杏子と双子の兄の慶太、帝都大学医科学研究所の宮田准教授の三人しか知らない秘密となっていた。 地縛記憶を見るのは超能力である。 超能力があることを世間に知られるのはリスクが高い。 そう考えた佑太は地縛記憶を秘密にするために、プロファイリングと偽っていたのである。 「杏子は、気付いてたのか。 実は、君があんな話するもんだから、ちょっと、見てみたくなったんだよ、この地に残る歴史の記憶をね。 そこに、出たかもしれない怨霊の正体を知るヒントがあるような気がしてさ。 で、見えてきたのは、関ケ原の合戦直後の……六条河原の光景だったよ」 「関ケ原……もしかして、処刑の場面ですか?」 「そうだ。 石田三成、安国寺恵瓊、小西行長といった西軍の将、三人の処刑の場面が見えたんだよ。 僕は、それを自分の意思で選んで、見たわけじゃない。 あそこではもっとたくさんの処刑された人たちがいるはずなんだ。 それでも、関ヶ原の合戦後に処刑されたその三人の武将が見えたってことは、三人の無念の思いが、それだけ強かったってことじゃないかな」 佑太は六条河原へ目をやりながら言った。 続く
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