「は、はい、実は……府警の方がお見えになりまして……正面橋の転落死されたお二人の件で色々と……」
御所は声を潜めながら答えた。
「このレストランで食事をされてたんですよね、その亡くなられたお二人は御一緒に」
「よく御存じで……」
「僕は知らなかったのですが、こちらが。 ああ、こちらは、帝都警視庁の方なんですよ」
「ええっ、あの事件は、帝都警視庁の方まで捜査に加わっておられるのですか?」
御所の顔に今度は驚きの色が浮かんだ。
「ええ、まあちょっと手伝いだけですが……あっ、失礼しました。 私、帝都警視庁の唐沢というものです。 で、やはりこのレストランで、二人は?」
唐沢が訊くと、最初は、御所には戸惑いがみられたが、すぐに吹っ切れたように答えた。
「はい、その左手のテーブルで、お二人で」
「そうですか。 それで、あのう、二人の関係って……そのう、どんな感じでした?」
唐沢の顔はすっかり刑事のものに変わっていた。
「どんな感じですか? ええ、そうですね、非常に親しいと言うか、仲がいいと申しますか……府警の方にも申し上げたのですが……若い女のお客様は、以前から、ときどき見えておられる方で……」
御所はゆっくりと記憶をたどるように答えた。
「ときどきと言いますと、定期的に、二人でここに来てたってことですね」
唐沢は畳みかけるように訊いた。
「ええ、そうです。 沢口様は京都に来られましたら、いつもわたくしどものホテルに宿泊されておられたようで。 予約の方は福本様の方でなさっておられましたが……」
御所の話は徐々に歯切れがよくなっていた。
「その若い女性、沢口さんの下の名は何と?」
「沢口、絵里香様でした、お名前は」
「沢口……え、り、かですか?」
「ええ、そうです」
「そうでしたか……で、沢口絵里香さんの部屋に福本さんが入られることはあったのですか?」
「それは、もちろんのことでございます。 いつも沢口様が部屋に入られると、まもなく福本様が訪ねて来られ、フロントで沢口様の在室をお確かめになると、そのまま部屋の方に上がられておられました。 そして、夕食は当レストランでおとりになることもあれば、外にお出かけになることもあったようです。 わたくしから見て、お二人は、いつも腕を組むなどされて、仲睦まじい雰囲気でしたね」
「福本さんが一緒に泊まられることはなかったのですか?」
「一緒に……泊まる? それはなかったですね」
「そうですか。 で、沢口さんは、どちらから来られていたのか、分かりませんか?」
「ええ、それは存じ上げております。 沢口様は、東京からお見えと聞いておりました。 ですから、翌日は、チェックアウトすると、すぐに京都駅に行かれ、そこから東京へ新幹線で帰られていたようでした」
御所は唐沢が帝都警視庁の刑事だと知って安心したのか、意外なほど明け透けに、沢口絵里香に関する情報を披露していた。
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