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『ひとたまりもない日本』

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ひとたまりもない日本  根拠なき「楽観論」への全反論

ひとたまりもない日本 根拠なき「楽観論」への全反論

  • 作者: 藤巻 健史
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2013/01/22
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
「金融緩和」「上げ潮政策」で最悪のハイパーインフレが襲う“日本はまだ大丈夫”のウソを完全論破。
ほぼ月イチペースで読もうと取り組んでいる日本経済論の本。今回は、僕が1990年代初頭に銀行ディーリングルームで働いていた頃によくテレビ東京の経済ニュースで解説しておられた藤巻さんの著書である。 僕には自分自身の確固たる経済観というのがないので、経済書を読むたびに「そうかも」とうなずくようなことを繰り返している。アベノミクスのサポーターの1人である浜田宏一教授の本を読めば、日銀にはまだ金融緩和をやる余地がかなりあるのにやっていないと日銀の怠慢というのにうなずいてみたり、反対にぐっちーさんの本を読めば、円高の方がいいに決まっているという意見に「そうだろうなぁ」と思ってみたり。皆さん自信満々に自説を語っておられるので、他人に影響されやすい無垢な読者は簡単に感化されてしまうのである。 そうした点からすれば、今は藤巻さんの著書を読んだ直後なので、藤巻さんが仰っていることがいちばん自分的なスッキリと頭に入ってくるような気がしている。少し前にぐっちーさんの著書を読んで「なんだか胡散臭い」という印象を述べたが、藤巻さんは本書の第4章「刻々と迫る円バブルの崩壊」と第5章「高まる財政破綻の足音」で、ぐっちーさんの論点にことごとく反論をしている。はっきりとそれがぐっちーさんだとは明言していないが、ぐっちーさんの著書を読んでさほど日も経っていないので、そうだとしか思えない。 振り返ってみると、ぐっちーさんが言っておられた論点でとりわけ目を惹いたのは以下の点だった。 -円は既に基軸通貨である。 -日本の輸出依存度は17%程度でそもそも内需主導経済。円安になって恩恵を受ける輸出企業は少ない -国債は9割以上日本人が買っているのだから、債務危機に陥った韓国やアルゼンチンとは違う。 -日本は世界最大の債権国だから、国が借金しても平気。 藤巻さんの主張は、これらの逆を行っており、円安論者であるとともに、日本の公的債務は既に危機的状況だとする。ぐっちーさんは週刊アエラで連載コラムを持っておられるが、藤巻さんは週刊朝日でコラムを書いておられる。同じ朝日新聞社なのに、ここまで主張が異なる論者にコラムを執筆させているのは皮肉、というか、意味がよくわからない。両者で割と似通っている主張は、「日銀は既に相当な量的緩和を続けてきている」とか、「デフレで景気が悪いのは少子高齢化のせい」といった点ぐらいだろう。同じ金融業界で実際に市場の動きを見守り続けてきた実務家なのに、ここまで大きく見方が違うのは驚きでもあるし、戸惑いもある。ただ、ぐっちーさんの本を読んでいて感じた胡散臭さというのは、藤巻さんの本では感じなかった。
僕は、税収が42兆円しかない国で歳出が90兆円もあるという財政の構造自体がそもそもおかしいと思っている。差額分は国債発行で賄っているわけで、そのつけは僕らの子供や孫の世代が負担を強いられることになる。子を持つ親の立場からはとうてい容認できないことであり、そうした正論をちゃんと述べておられる藤巻さんの主張には大いに賛同する。 また、ぐっちーさんの主張と180度異なる円安待望論も、わかりやすいと思う。為替レートは輸出企業だけではなく、生活すべてを左右するというのはその通りで、法外な円高がなければ、日本の農産品だって外国からの輸入農産品に価格競争で負け続けることもなく、ここまでの農業の衰退、補助金漬けの農業にはなっていなかったに違いない。藤巻さんはTPP参加推進派であるが、今の日本国内で参加の是非を巡って賛成、反対が真っ二つに割れているのも、突き詰めればもっと円安なら国内製品、農産品は国内市場でも海外市場でも、まっとうな競争条件で他国の製品、農産品と競争できるのでTPP参加に支障はなくなると論じておられる。 ただ、気になるのは藤巻さんがどの程度の円安ならいいのかという水準を明示していないことだ。本書を読むと、1ドル=100円程度を良しとしている箇所と、極論して1ドル=1000円なんて水準で起こりうることを例として持ってこられている箇所があり、読んでいて混乱を来す。かと言って安倍政権下で進められている量的緩和は日銀の能力の限界が近づいており無尽蔵にはできないと述べているし、でも円安待望論者でもある。 僕の浅読みかもしれないが、藤巻さんの持論であった幾つかの政策が採用もされずに今日に至っている以上、もっとも可能性が高いのは何かの拍子に国債暴落が起こることだと考えられているようだ。なんだか、座して日本経済の崩壊―――フジマキ流でいうと「創造的破壊」のチャンスを待っているしかないという印象で、まあ日本経済は本当に後がないのだというのはわかるけれど、ただ崩壊するのを待っていろ、その後明るい未来が待っているというのはなんだかなぁという気もする。 それに、藤巻さんが書いておられるブログからかなりの点数の記事を本書のコラムとして転載されているが、何の示唆があるのかわからぬエピソードが冒頭に必ず出てきて、読んでいてあまり面白くなかった。これが1200円なのだから文句は言っちゃいけないが、随分と編集のムダをやっているような印象を受けた。その点では惜しい1冊である。

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