両親から酷い虐待を受けて育った橋爪北斗は心を閉ざしたまま孤独に生きてきた。 父親の死をきっかけに母親と離れ、里親の綾子と暮らし始める。 綾子の愛情に最初は戸惑っていたものの、徐々に心を開いていくようになる。 しかし綾子は癌に侵されてしまう。 北斗は貯金を切り崩し、癌に効くという高価な水を購入し続ける。 それが思いもよらぬ殺人へと繋がってしまうのだった。 児童虐待や裁判の場面が細かく描かれており、真に迫るものがあった。 北斗は石田衣良の小説に出てくることの多い感受性の強い少年。 思っても見なかった殺人を犯してしまい、 自分は取り返しのつかないことをした、生きている価値のない人間であると、頑なに極刑を望む。 その様子は自暴自棄であるが、純粋な若者が陥りやすい考えだともいえるだろう。 しかし弁護士や同じく里子である明日実の献身的な働き、 被害者家族の供述などにより、拘置所で自分を見つめ直し、心情が揺れていく。 この辺りは綿密に描かれており、感情移入してしまう。 力作だった。
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