今年もお盆がやってきた
お盆がくるとママはとても忙しそうだ
お盆の飾り付けをして。。。
お供え物をして。。。
暗くなった頃、迎え火をたいて
お線香をあげて
お墓参りをして
ずっとずっとおうちのお仕事をしている
忙しくて大変だなって思う
ゆかのおばあちゃんは
ゆかが5歳の時、死んじゃった
悲しくて仕方がなかった
でも、お盆の間は
おばあちゃんはおうちに帰ってくるんだって
目には見えなくても
ゆかのそばにいるんだって
ママが教えてくれた
おばあちゃんが帰ってくるから
ママは、あんなに頑張って
お盆の支度をしているんだろう
ママは、おばあちゃんが大好きだったから。。。
おばあちゃん、聞こえる?
ゆかね。。。
もう小学生なんだよ
おばあちゃん。。。ここにいるんだよね
おかえりなさい。。。おかえりなさい
お盆のときは、毎日
おばあちゃんの好きだったおかずがならぶ
しらすごはんと筑前煮
けんちん汁も必ず出てくる
暑い夏。。。
煮物とか汁物とか
汗をいっぱいかきながら
ママは台所に立っている
おばあちゃんのためなら
どんなに暑くても我慢できるんだね
すごいなぁ。。。
ゆかだったら、絶対ダメ
でもいつか大人になったら
ママみたいに優しくなれるかな
そんなふうになりたいなぁ。。。
お盆が終わる。。。
送り火をたく
これでお別れだね
また、来年。。。
同級生の家では
送り火は夕方にたく。。。
家族みんなで
死んだ人の魂を送るんだっていう子が多いけど
うちを違う
朝いちばん。。。
まだ涼しいうちに
おばあちゃんを送り出す
「そのほうが、おばあちゃんが帰る時
涼しくって楽でしょ。。。」
って、ママが言ってた
帰り道の心配までするなんて
おばあちゃんのこと本当に
大切に思っているんだよね
すごいなぁ。。。
ママは、優しくて
とっても家族思い
きっとおばあちゃんも喜んでくれてるね
ばいばい。。。おばあちゃん
また、来年ね。。。
朝の送り火。。。
お盆は今日で。。。おしまい。。。
「ただいま」
今年も。。。
聞きたくて聞こえるわけじゃない声が
私の耳元で響く
私はひたすら。。。聞こえないふり
ここで反応しちゃいけない
少なくとも、私が見えることを
お義母さんだけには気付れちゃいけない
もし、わかってしまったら
どれほど小言を言われるか。。。
想像しただけで恐ろしい。。。
くわばら くわばら
子供の頃から、私には霊が見える
でも、見えると言っても誰も信じてくれなかったし
見えることで得をしたこともない
っというより。。。
うそつき呼ばわりされたり
気味悪がられたり
悪いことばかりだ
なので。。。
幼い頃。。。
私は、見えることは誰にも言わないと誓った
霊を見ても
何の反応もしないようにして
霊が何を言ってようが
完全無視を貫いた
霊の方も、私が見えることがわかると
私の周りに群がってきて
あれをしてほしいとか
これをつたえてほしいとか
頼みごとばかりしてきた
かなり面倒くさい
見えないことにする。。。
それは、生きてる人間と上手くやってくために
そして、死んだ人間に煩わされないために
幼い私が選んだ最善の方法だった
それからは、人と同じように
普通に人生を歩んできたつもりだ
結婚をして。。。
娘のゆかが生まれた
同居していたお姑さんとは。。。
実は、あまりうまくいかなかった
ささいなことで喧嘩をしたり
いがみ合ったり。。。
私はお義母さんが嫌いだったし
お義母さんのほうも私が
嫌いだということもわかっていた
だがそれは。。。
親と同居をしている大半の家庭と同じ
私だけが取り立てて不幸というわけではない
夫は優しかったし
娘もすくすくと育っている
そんな事を考えれば。。。
むしろ、私は幸せなのかもしれない
けれど。。。本音を言うと。。。
同居は辛かった
そして、お義母さんが亡くなった
その死はあまりに突然で
だけど、私は
いけないと思いながらも心のどこかで
同居の終りを喜んでしまったかもしれない
家族を亡くした喪失感と悲しみは、確かにあった
でも、それ以上に。。。
同居というのは私には重荷だったのだ
これでもう。。。
お義母さんと暮らさなくてすむ。。。
その安堵感を
誰にも言えずに
私は私の心の中で
たった一人で噛みしめた
ところが。。。やがて
私のささやかな不幸が始まった
その不幸というのは
お義母さんが亡くなってからの最初のお盆
新盆と共にやってきた
「ただいま」
懐かしい声がする
見ると。。。
なんと、お義母さんが立っている
あっ。。。
思わずこちらも声をあげそうになったが
必死でこらえた
そっか。。。お盆って
本当に死んだ人が戻ってくるんだ。。。
私はその時、初めて悟った
年に4日間だけなので
ささやかではあるが
生きてるかぎり、毎年必ず。。。
お義母さんとまた
同居しなくてはならないことを
そして、お義母さんは、お供えの野菜を見ながら
こんなことを言い始める。。。
「私、生野菜なんて食べたくないのよ
せっかくたまに戻ってきたんだから
しらすごはんと筑前煮
それに、けんちん汁が食べたいわ。。。」
えっ。。。この暑い中。。。煮物???
それにしても、相変わらずだわ
死んでも少しも変わってないなぁ。。。
まず、お供え物のダメだしなんて
そう思ったら、可笑しくなった
なんだか不思議と
嬉しい気分になっている自分がいる
あれ。。。おかしいな。。。
あれほど嫌だったお義母さんの小言が
嬉しくって仕方がないなんて
いったい、どうしてなんだろう。。。
その日の夕飯の献立
しらすごはんと筑前煮
それにもちろんけんちん汁をつけた
少しずつとりわけて。。。
お義母さんへの影膳
生きていた時の自分の席に座っていたお義母さんが
にっこりほほ笑むのを見た
私もなんだか、無性に嬉しくなった
お義母さんと暮らした10年間
喧嘩ばかりしたけれど
助けてもらったこともある
何より。。。
同じ季節をいくつも一つの家族として過ごしたことで
好きとか嫌いとか
そういう感情よりもっと深いところで
もしかしたら生まれていたのかもしれない
家族の絆。。。というものが
とはいえ。。。嫌いなものは嫌い
苦手なものは苦手
私がお義母さんを嫌いということに
何の変りもない
お盆中に発せられた
お義母さんの数々の他の小言には
完全無視を貫いた
そして、お盆の最終日。。。
本当は、陽の落ちるギリギリまで
ゆっくりしていたいであろうお義母さんを。。。
朝の送り火で見送った
「今のうちなら。。。涼しいからね
気をつけて帰ってね。」
娘と一緒に送り火を見つめながら
そう呟いた
私は嘘つきだ。。。あははっ
でも、ご飯くらいは
お義母さんの好きなものを作ってあげようと思った
それくらいはしたかった
仮にも。。。
家族だったのだから
以来。。。
我が家のお盆のメニューは
しらすごはんと筑前煮
もちろん、けんちん汁つき。。。
送り火は。。。早朝。。。に決定した
そして、今年もお盆はやってきて
あっという間に終わってゆく
朝の送り火。。。
お義母さんは帰り際に
こんなことを言った
「もう少し、ゆっくりさせてよ。」
もちろん、完全無視だ!!!
あの世へ帰ってゆく
お義母さんの後姿を
朝日の中で眺める
するとふと、お義母さんが振り返って
手を振りながらこう叫んだ
「しらすごはんと筑前煮
けんちん汁も美味しかったわ
ごちそうさま。。。
あんた、ほんとは見えてるんでしょ。
まったく、うちの嫁は。。。
嘘が下手で困るね。
また、来年も来るからね。
覚悟しておき!!!」
お義母さん。。。わかってたの?
お義母さんはニヤリと笑ってから
また、前を向き直し
そうして、スッと消えて行った
本当にびっくりした
さすが、私のお姑さんだ
仕方がない。。。
来年のお盆の送り火は。。。
夕方にしてあげよう。。。
そうしたら、しらすごはんと筑前煮
それに、けんちん汁を
もう一杯ずつ余計に食べて帰れるものね
今の私が、嫁として。。。
お義母さんに出来るのは
それくらい。。。
私はお盆が嫌いだ
だって。。。お義母さんが帰ってくるから
そして。。。暑い中
煮物をしなくちゃならないから
だけどなんだか
来年のお盆が。。。ちょっとだけ。。。
待ち遠しい
どうせ、ばれちゃってるなら
来年は。。。
私も。。。おかえりって。。。
言ってあげようかな。。。
なんて思ったりして
おしまい
にほんブログ村
人気ブログランキングへ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ