副題は「日本人はなぜ決められないのか」。
日本人だって、決めていますよ。ただ、時間がかかる。遅すぎる。「日本人はなぜ決めるのが遅すぎるのか」という方が適切だ。
原因は…日本の組織の意志決定が「空気」によるものだということである。「空気」を醸成するには時間がかかる。
日本の組織における「空気」の存在を最初に指摘したのは山本七平だろう。山本七平には『「空気」の研究』という名著がある。今でも文春文庫で読むことができる。
以前、『「空気」の研究』を読んだとき、こういうのもありだな、とは考えたものの、切実感はなかった。ある意味、他人事のような気楽さがあった。
それがそうではなくなったのは、福島の原発事故以後である。「空気」の怖さを如実に感じるようになった。福島の原発事故によって日本社会の特異性を認識した人も多いだろう。いい意味でも、悪い意味でも。
悪い意味では、結局、日本人の意志決定は太平洋戦争中と変わっていないということである。太平洋戦争の失敗を生んだ意志決定の欠陥は、そのまま戦後日本に持ち越され、現に今も存在している。
欠陥を認識すれば矯正も可能だっただろうが、反戦気分で蓋をしてしまった。こういう対処法もまた日本的かと思う。
…
この本では「空気」が存在する歴史的所以が解説されている。丸山真男の古事記に言及した文章まで引用されている。1500年前から「空気」が存在していたといわれても、検証不可能である。
日本の歴史を通してずっと「空気」が意志決定をしていたというのか。これはおかしくはないか。あるいは外国では「空気」は存在しないのか。疑問は残る。
「空気」の研究については、山本七平の著作の方が有益で示唆に富む。「空気」による意志決定の欠陥については、太平洋戦争中の日本軍を論じた「失敗の原因」(中公文庫)の方が参考になる。
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