夜空に見える星はたいていは太陽と同じく恒星である。無数にあるそうした星々の周りを、たくさんの惑星が回っている。中には地球と似たような環境の惑星もあるだろう。もし人類が宇宙を飛び出して、そのような惑星に行けたとしたら、その星に移住することもできるかもしれない……。 ロバート・A・ハインラインが書いた「宇宙に旅立つ時」は、まさにそんな宇宙にかける人類の夢を描いた作品である。 人口問題に悩まされる未来の世界。人類は居住可能な惑星を見つけるために、太陽系外宇宙の探査計画をたてる。亜光速宇宙船を飛ばして、星々の環境を調査しようというのだ。主人公の双子の少年トムとパットはこの計画に志願することになる。彼らはテレパスで、お互いにテレパシーでやりとりすることができる。遠距離にある宇宙船と地球の通信係として、彼らの能力がどうしても必要なのだ。 だが、双子のうち宇宙に行くことができるのはひとりだけ。もうひとりは地球のとどまる必要がある。トムはパットと離ればなれになりながらも、宇宙を目指す。地球から11光年離れた星、くじら座タウに向かって――。 宇宙にはどんな世界が広がっているのだろう? 宇宙旅行にはどんな困難が伴うのだろう? そんな空想の世界を、ハインラインならではの鮮やかなビジョンで見せてくれる作品。船員の組織から惑星探検の方法、宇宙船内の反乱まで具体的に筋道立てて書かれていて、遠い未来には本当にこんな世界が来るんじゃないかと思わせられてしまう。 主人公のトムは双子ながらもいつもパットに負けてばかり。コンプレックスを持ってきたが、宇宙を飛び出して困難に立ち向かううちに成長を遂げていく。トムとパットとの間の心理的な葛藤、トムの人間的成長というところも読みどころだろう。 とくにウラシマ効果がうまく使われているのはSFならでは。相対性理論では、高速で移動するほどに時間の流れが遅くなる。宇宙船は光速に近い速さで移動しているので、宇宙船にいるトムと地球に残っているパットとの間に時間のずれが生じてくる。トムが宇宙船でほんのわずかな時間を過ごすうちに、地球では何十年も経っていたなどということになる。 トムがまだ20代前なのに、パットは結婚し、子供もでき、孫ができと、どんどんトムとパットの人生がずれていくところが興味深い。同じ生活を送っていたはずの双子の人生が、二股に分かれてゆく。パットに依存していたところもあったトムが、時間がたつにつれ、パットと異なる人生を歩むにつれ、やがて自立してひとりの大人になっていくのだ。 宇宙での夢と冒険を描いたわくわくさせられる作品であると同時に、少年が困難に立ち向かう青春ものでもある。いかにもハインラインらしい語り口で、読み終えたあとさわやかな気分になる一冊だった。
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