〈魔王子〉シリーズで知られ、(わたくしにとっては)もうそれだけでSF史に名を残しているジャック・ヴァンスの作品集です。これが日本で初めての傑作選だそうで、訳者あとがきの「日本における山田風太郎の立ち位置」という説明には大いに頷かされました。
短めのものからスタートして、だんだんボリュームのある中篇群へ移ってゆく並びですが、一冊の半分を占めるような長さに達する作品はありません。にもかかわらず、まるで上下巻一組の長篇小説を味わったかのような充足感があるんですよ。得意な設定を少ないページ数であますところなく伝え、読者を存分に驚かせた上で納得させる手際がほれぼれするほど美しいんです。ちょっとだけ別の時代、別の世界へ行ってきた気分に浸れます。
社会的コミュニケーションに仮面と音楽が不可欠な惑星に着任した青年が悪戦苦闘する「月の蛾」は一風変わったSFミステリの趣があります。魔法が科学のごとく発達し、科学が迷信として疎んじられる世界の戦争を描いた表題作「奇跡なす者たち」は、背景のなりたちからいずれ訪れるかもしれない未来の暗示までを、日本語訳で120ページ程度の中にきっちり収めています。スタイルについてはそこまで似ているわけではないんですけれども、視点に関しては「最高級有機質肥料」「驚愕の曠野」など、やたらと筒井康隆を思い出しました。
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ジャック・ヴァンス『奇跡なす者たち』(国書刊行会)
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