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第四百十九話_short 予言

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 厳格だった父は、私が小さい頃からなにかにつけ厳しい躾を強いてきた。遊ぶ相手もいちいちどこの家のどんな子供なのかと訊ね、多くの場合は付き合ってはいけないとか、友達としてこの線を越えてはいけないとか指示を言い渡された。

 母は物静かな性格で父に対して従順な人だったが、父の厳しさには時として反意を感じてはいたとしても、逆らうようなことはなく、父に叱られている私に影で「逆らうんじゃない」という目配せをした。

 当然のことながら私は思春期になるとこの厳格過ぎる父に逆らうようになったのだけれども、それは一時的な反抗期としてあしらわれ、それ以上に大げさなことになったりはしなかった。

 このような家庭環境で育った私はすこぶるまっとうに社会に適合できる女性として成人を迎えることができたのだが……

 父のせいだかどうかはわからない。私は幼い頃からさまざまなことに深読みをする癖を身につけて来た。

 たとえば休日に外出する際にでも、留守中に誰かが訪ねては来ないだろうか。もしそれがただのセールスなら留守の方が幸いだけど、大事な用事の誰かだったら? いやその場合は電話が来るだろう。でも宅急便だったら? その場合はマンションの宅配ボックスにいれてもらえばいい。だけどときどきボックスがいっぱいだったり、宅配業者がボックスの存在に気がつかなかったりすると不在票が入って再配達の手続きが面倒だなぁ。しかし何かを注文しているわけではないから、たぶん宅配便は来ないだろう。しかし誰も来ないような塩梅で部屋の周りが静かすぎると、もしかして侵入者にとって言うことのない条件になるのでは? 近頃は空き巣が多いと聞くけれども、たとえマンションの十階という部屋であっても油断はできないと言うし……。

 次から次へと湧き出てくる心配ごとが、また新たな心配を連れてきて、もしこうならどう、ああならこうと、考えれば考えるほど次の行動が取れなくなってしまう。

 病的か? 

 いや、そんなはずはない。

 自分で自分のことはなかなか評価しにくいのだけれども、深読みし過ぎ、心配し過ぎであることはおおよそ自覚はしているのだが。

 結局こんな性格が故に、私は自分に自信が持てない自分を作り上げてしまったようだ。

 きっとこの先いくら頑張ってもお金持ちになんてなれっこないし、なにかで大成功を収めるような器量もない。とりたてて美人に生まれついているわけでもないから、いい男と出会うようなこともないだろう。平平凡凡とした一日を繰り返して、一年が過ぎ、十年、二十年が過ぎ、私はなんのとりえもないまま朽ちていくに違いない。

 運命とは不思議なもので、そんな私に何か奇跡が起きる、というともなく……

 気がつけば老齢と言われる歳になってしまった。 

「予言の自己成就」

 こんな言葉を知ったのはほんの昨日のことだ。

 その意味は、たとえなんら根拠のない思い込みであったとしても(これを予言と呼ぶ)、その予言を信じて行動することによって、予言通りの出来事が起きてしまうということだ。

 私は自分自身で未来の自己像を作り上げ、その通りの人生を歩んできたのだと、いまになって気付かされても、もう遅い。

                      了


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