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螢川 宮本輝著

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私の青春時代の読書は宮本輝さんの作品とともにあると言っても過言ではありません。たまたま高校生のときに初めて彼の作品を読んですっかり感動し、市の図書館にある彼の本はすべて借りてきて読みました。とにかく大好きでした。言葉が美しかった。あの頃を思い出して、古い作品ですが芥川賞受賞作の「螢川」再々読です。 「螢川」 昭和30年代を舞台にした中学生の少年、竜夫の物語。私もこの地方の生まれなので、部屋の中にいても雪が降ってきた気配を感じることができるという感覚、わかります。思春期の少年の心情、子どもから大人へと成長する途中の心の揺らぎ。淡い恋、友情、進路のこと。あぁ、そういうことあったなぁと昭和の雰囲気も合わさって懐かしい気持ちが甦りました。 若い頃は事業をどんどん拡大し、精悍な体だった父が老いて病に倒れる姿。「彼は突然、運に見放されたのだ」という父の友人の言葉。人生はどんなことがきっかけで変わっていくのだろうか。父の前妻、春枝さんの人生も振り返ったら壮絶だったはず。 私がこの本を初めて読んだのも昭和が平成に変わる頃だったと思います。あの時代に戻ることは絶対にできないけれど、私は確かに昭和という時代に中学生時代を過ごしたのだと改めてあの頃を思い出しました。高校生のときの自分がこの本を読んで具体的にどんなことを感じたか今となっては忘れてしまいましたが、40歳を過ぎた私とは違った感性を持って読んだろうな。今回再読して泣きそうになりました。 人生のそのときそのときのこと、すべてが嘘ではなかった。竜夫の母の言葉が印象的でした。4月に大雪が降った年だけ川の上流に現れるという降るほどの螢の大群。螢の大群が放つ圧倒的な命の光に人の生と死、強さと儚さを見ました。30年近く経って読んでも、ちっとも色褪せていなかったです。 併録の「泥の河」 昭和30年代の大阪。堂島川と土佐堀川がひとつになり安治川となって大阪湾に注ぐ。ポンポン船が行きかう。舟に乗って川底からゴカイを捕り、釣り人に売る老人。まだ荷物を馬車で運んだり、水上生活をする人々もいる。戦争の爪痕がまだ残る時代。 黄土色の川筋に住む小学校2年生の信雄。彼は廓舟で暮らす姉弟と出会う。姉弟の母は夫を失い、舟で客をとり、生計を立てている。 信雄と同い年の喜一が時折見せる異常性はその生活環境と、この時代特有のものからきているのか・・・。 雨あられの砲弾の中でも怪我ひとつ負わず、復員した父の友人があっさり命を落としたり。一生懸命生きても、いつなにが起こるのか分からないのが運命なのだろうか?力一杯のことをやっておきたいという父。今の時代、私はこの歳まで生きてきて、そんなに命の重みを考えることはなかったなぁ。 私自身この時代には生まれていないし、現在の大阪の川は綺麗で、今と全く違うけれどなぜか懐かしい。あらゆるゴミが流れ、異臭がしてきそうな泥の河。貧困。それでもそこに浮かぶ情景が美しくて哀しい。 やっぱり宮本さんの描写は深く心に残り、響きます。また彼の本を一冊ずつ読み直そうかな、と思いました。

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