「あっ、てっちゃん!」 やって来たのは、ユウタと同じクラスの友達だった。妹と遊んでいた所を見られたのが余程恥ずかしかったのか、友達を見上げたユウタの顔は、みるみる赤くなっていく。 真新しい自転車で現れたその少年は、地面すれすれのつま先を『これでもか!』と目一杯伸ばし、愛車を支えながら、「ユウちゃん、日吉神社へ遊びに行こうよ。紙芝居が来る日だよ」 誘われたユウタは、今まで力一杯握りしめていたスコップをあっさり投げ捨て、泥まみれの手を半ズボンの裾でぬぐいながら嬉しそうに立ち上がった。 「うん!行く。ちょっと待っててくれる?」と言いながら、家の中へ戻ろうとした。が、ユウタの後ろにはいつものように、ぴったりとリカが張り付いている。 「リカも行く」ユウタは『またかぁ…』と溜息まじりに腕組みをして言った。「リカはダメ!」 「どうして?」 「自転車で行くんだから」 次第にリカの涙が目尻一杯に溜まってゆく。「リカ、走ってついて行くから」 「バカ、てっちゃんの自転車を見ただろ!僕だって付いて行くのがやっとなんだよ」 「リカなんて途中で転んじゃうにきまっているさ」 その言葉で、ついに我慢していたリカの涙が決壊し放流した。「えぇーん!お兄ちゃんの意地悪」 『お兄ちゃんはお宮様で紙芝居を見て、きっと梅ジャムせんべいを食べたよ』ってママに言いつけちゃおうと、リカは幼いながらも、兄妹の『肝』である母を引き合いに、ユウタを脅したのだ。
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