内容(「BOOK」データベースより)前回ご紹介した『つきあい方の科学』の学びで言えば、「やられたらやり返す、倍返しだ」というのは、最高の報復戦略でしょう。それを常日頃から公言していれば、そもそも一方的に「やられる」という事態自体を回避することができるのでしょう。しかし、もしそれが上司と部下との関係や国税・金融庁と銀行との関係の中で起これば、報復という行為自体が考えにくいので、黙っていれば一方的にやられることもあり得るのかもしれない。 池井戸潤の作品はけっこう読んでいるつもりでいたが、よくよく調べてみたら、半澤直樹シリーズの第1弾『オレたちバブル入行組』を漏らしていることに気付いた。慌てて先々週読んでみることにした。TBS系列で日曜夜に放送されている『半澤直樹』は、『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』の2作品を合わせて10回シリーズで放映する。先週末が参議院議員選挙の特別番組で放送お休みになったのを機に、先回りして原作の方をチェックしておきたいと考えた。 ちなみに、池井戸さん自身もそうだし、同い年で最初は金融機関勤めをしていた僕も、いわば「バブル入行組」である。大手と中小の違いはあるので取引していた顧客には大きな違いはあるし、銀行の組織の規模も全然違う。同期入行して功を競うライバルの数も相当違うんだろう。 だから、ドラマにしても原作にしても、銀行という組織の中でこんなに理不尽がまかり通っているという描かれ方に対しては、全面否定はしないものの、かなりの違和感を覚えた。ここまで露骨に特定の中間管理職に融資失敗の罪をなすり付ける支店長というのも、単なる支店長のご機嫌伺いしかできない副支店長というのも、支店から回付されてきた融資稟議書にめくら判を押せる審査部にも、違和感が相当に大きい。池井戸さんの出身銀行にはあったのかもしれないが、僕の勤めていた銀行にはここまで酷い話はなかったと思う。フィクションだからこれくらい極端な描き方でないと作品としては売れないのかもしれないが。 ドラマの方も原作の方も視聴者/読者には好感をもって迎えられているようだし、ストーリーとして面白いことは間違いないのだが、銀行というのがどこでもこんな感じなのだとは思って欲しくないし、ついでに言えば国税の査察官がいつもこんな調子なのだとは思わないで欲しい。 それに、半澤の言う「倍返し」も、ちょっと執拗すぎる印象も。徐々に精神的に追い詰められていく浅野支店長の心境を描いているあたりは、その通りなんだろうけれどもちょっと可哀想になってしまった。犯した罪は償わなければならないのは言うまでもないことだが…。 僕も池井戸さんと同様「バブル入行組」だから、それ以前に入行した行員やそれ以降に入行した「ロスジェネ組」と客観的に見てどこがどう違っているのかは興味があるところだが、半澤直樹シリーズ三部作を読んでも、あまりよくわからなかった。僕らは入社したばかりの頃、よく「新人類」と言われた。組織への忠誠心が希薄で、会社の行事には積極的に関わろうとせず、プライベートを重視する。出世にも無頓着で、社内ポリティックスにも加担しようとはしない。そんなところだろうかと自己分析しているが、半澤直樹がそうかというと、当っているところも外れているところもある。
大手銀行にバブル期に入行して、今は大阪西支店融資課長の半沢。支店長命令で無理に融資の承認を取り付けた会社が倒産した。すべての責任を押しつけようと暗躍する支店長。四面楚歌の半沢には債権回収しかない。夢多かりし新人時代は去り、気がつけば辛い中間管理職。そんな世代へエールを送る痛快エンターテインメント小説。
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『オレたちバブル入行組』
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