「もういいかい?」 「まぁだぁだよ!」
「もういいかい?」 「…まぁだぁだよ!」
「もういいかい?」 「…」 「お兄ちゃん!もういいかい?」 「…」 「お兄ちゃん。もういいよって言ってよ」
どこか見覚えのある路地を、泣きじゃくりながら、ひたすら兄の姿を捜しまわる。アラーム音が鳴り響く中、私は今日もこの夢で目覚めた。
リカは、田舎から出て28年になる。家族も、憧れのマイホームも手にした。両親とは電話やパソコンで良く話をするが、5つ上の兄とはしばらく疎遠になっている。
子供の頃、よく裏の庭で兄のユウタとダムごっこをして遊んだ。川に見立てた細長い溝を掘って、厚い壁で仕切りをつける。上流側に水を貯めてはて、あふれ落ちる水を楽しんだものだ。
麦ワラ帽子に太陽の陽射しがふりそそぐ夏のある日、『笠堀ダムに負ないくらいのダムを作るぞ』とスコップ片手に二人は黙々と穴を掘っていた。
すると、遠くの方からから昼中にも関わらず、ピカピカとライトを点滅させながら、リズミカルなクラクションとともに一台の自転車が近づいてきた。 <つづく>
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