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高橋源一郎著「銀河鉄道の彼方に」を読んで

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高橋源一郎著「銀河鉄道の彼方に」を読んで IMG_1895.JPG 照る日曇る日 第609回 これはげんざい著者がこの混沌とした世の中にあって翻弄されている我等の人生の根本問題について間歇温泉の水脈の放出のごとく頻々かつ長々と思案に耽る、いうなれば一種のゆるい哲学小説のやうなものである。 そこでは、タイトル通り宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を踏まえたり引用しつつ、かのジョバンニ選手が登場して源ちゃんの息子と思しき少年の行方を追ったり、さまざまなエピソードがきら星のようにまたたくのであるが、おおざっぱに括ると、人間とはなにか、人間のほんたうの幸福とはなにか、しかしてそもそも私らがその中で存在していると称される宇宙とはなにか、エトセトラの諸問題が、563頁にわたって延々と追究されているので、さすがの源ちゃん大フアンのわたくしも途中で昼寝したり、あくびをしたり、被災地からやって来た次郎君を愛撫したりで大変だったが、読むほうがこれくらい大変なのだから、書く方はもっと大変だったに違いない。 そのようにお互いに苦労と辛抱を重ねながら書き進み、かつまた読む進む小説であるから、著者が本書で本当はなにを言いたかったかはあんまり分からなくとも、書き手と読み手が一緒に行く宛てなしの銀河鉄道の列車に乗り込み、お互いに呼吸を併せて一種の知的探索、といって悪ければ、禅問答的自問自答、といってまた悪ければ、なんの成算も予定調和のシノプシスもなく前人未踏の臨生臨死の領域にどどししどっどと踏み込んでゆくというハラハラ時計付きドキドキ生命爆弾体験をする仕儀となる。 ともかくこれは巨大なスケールの実験小説であり、その果敢な試みが成功しているとはお世辞にもいえないけれど、並みの読書では絶対に出来ない秘められた内的事件をいつしか閲してしまったような、そんな不可思議な気がする奇妙な味わいの小説なのである。 別るるは少し死ぬることと覚えしがこの身を刻む痛みなりけり 蝶人

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