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もうじやのたわむれ 295

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 補佐官筆頭は気が急いているにも関わらす、詳しく拙生の質問に応えるのでありました。 「ふうん。で、その事務方トップにこの事態を報告して、指示を仰ぐわけですね?」 「そうです。ま、役所ですから緊急の出張だとしても、色々な提出書類や上への報告が要るのです。ですから私はこれから大回転で色々動き回る必要があるのです」 「ご苦労をお察しします。ところで補佐官筆頭と云う役職は閻魔庁ではどのくらいの地位になるのでしょうか? 前に審問官さんや記録官さんから、閻魔庁に入って補佐官筆頭で退職するのが、一番の出世コースだと伺った記憶があるのですが。それに閻魔大王官もその補佐官筆頭を終えた方が選抜されてなるのだとも聞いたように思うのですが」 「補佐官筆頭と云う役職は、ま、実質、主席事務官の次席となりますかな」  補佐官筆頭はちょっと誇らしげに、またちょっと照れ臭そうに云うのでありました。 「主席事務官になるのはなかなか難しいのですかね?」 「そうですね。学閥とか政治力とか生まれの良さとか、色々億劫になるような要件がありまして、ま、一般的には別格の地位で、普通の職員は端から望まないでおくポストですね」 「生まれの良さ、ですか。何か極楽省の住霊の話しみたいですね?」 「まあ、生まれの良さと云っても、鬼になって自分が何代目になるか、と云う事でして、閻魔庁だけの旧弊と云えなくもない事柄です。一般の社会とか、他の行政庁では殆ど重きをなす要件ではありませんね、それは。ま、鬼の中の鬼、が主席事務官になるのです」 「ははあ、鬼の中の鬼、ですか。成程」  拙生は感心して見せるのでありました。 「ええと、私はもう、主席事務官のところへ行っても宜しいでしょうかね?」  補佐官筆頭が焦った顔で、遠慮しながら拙生に訊くのでありました。 「ああ、これはとんだ足止めを食わして仕舞いました。申しわけありません」  拙生は愛想笑いながら頭を掻くのでありました。 「では、急ぎますので」  補佐官筆頭は拙生にお辞儀をして、もう一鬼残った補佐官と伴に、気忙しげに後ろのドアの方に体を向けるのでありました。 「ああ、今頭を掻いていて思い出しましたが、宿泊施設で夜にボールペンで頭を掻いていたら頭皮がヒリヒリとしたのですが、亡者の仮の姿にも擦過傷が出来たりするのでしょうかね? 触ってみると別に血も出ていないし、痛みの部位を特定も出来なかったのですが」  拙生の不意の質問に補佐官筆頭はもう一度拙生の方をふり向くのでありました。その顔には些かげんなりした色が付着しているのでありました。 「それはですね、・・・」  余程人の良い、いや、鬼の良い律義な性格なのでありましょう、補佐官筆頭は体ごと拙生の方に向き直って、説明を始めるのでありました。その様子を見て、今更どの面下げてと云われそうでありますが、拙生は気の毒になるのでありました。 「ああいや、お急ぎのようですから、この質問は無視してください」  拙生はお辞儀して両手を頭の前で横にふって、恐縮の物腰をして見せるのでありました。 (続)

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