ど~も。ヴィトゲンシュタインです。
ハンス・ペーター・リヒター著の「ぼくたちもそこにいた」を読破しました。
先月の「あのころはフリードリヒがいた」に続く、著者リヒターの自叙伝的小説、第2弾です。
前著は反ユダヤ主義を少年の目で描いたものとして有名でしたが、
本書は熱心なヒトラー・ユーゲントであった自分たち少年の姿と、その生活を描いたもので、
翻訳版は1995年、そして2004年に新装版として出た302ページの児童文学です。
1933年のドイツ、夜中に殺し合い。殺されたのは茶色、やったのは赤。
人ごみの中で女が言います。
「この政治、いまいましいったらありゃしない!
ヒトラーか、でなきゃ、テールマン。茶色か赤か。どっちもどっち、似たり寄ったりなのに!
馬鹿を見るのは私たちよねぇ!」
すると中年の男が口を挟みます。
「政権を取るのが共産主義者か国家社会主義者かで大違いだ。
共産主義者は俺たちから個人の財産を奪おうとして・・」。
8歳の「ボク」は友人のギュンターとアパートの前で歌を唄っています。
しかし帰ってきた父はビックリし、「お前たち、気がおかしくなったのか!」
「母さん、この子たちったら大声で『インターナショナル』を唄ってるんだ」。
そして「新しい首相はああいうのが嫌いなんだ、赤は禁止になったんだよ・・」と
汗をかきかき説明し、どうしても唄いたければこの歌をとばかりに、
『旗を掲げて(ホルスト・ヴェッセル・リート)』を推奨するのでした。
夏には新しい政党の結成が禁止され、10月には国際連盟から脱退。
11月にはまたもや総選挙・・。
大統領ヒンデンブルクと首相ヒトラーのポスターが至る所に張られ、
「アドルフ・ヒトラーで平和を!」と、横断幕の投票所。
息子に『インターナショナルを教えたギュンターのお父さんが騒いでいます。
投票用紙には「諸君は帝国政府が行う政治に同意し、それを諸君自身の見解と
意思の表明であると宣言して、自らそれに属することに誠意をもって認める用意がありますか?」
と書かれ、ナチ党以外からは何も選べない、形だけの総選挙なのです。
そんななか、「ドイツ少年団」入りした2歳年上のハインツは、よぼよぼのお婆ちゃんに説明。
「白い用紙の『国家社会主義ドイツ労働者党』の横にある丸になかに印をつけてね、
緑の用紙には『賛成』の丸のなかに印を書き入れてください」。
それを見ていた「ボク」の父は、「お前、ああいう子を友達にしなくちゃ!」
翌年、祖母に買ってもらった茶色の開襟シャツを着て、
ドイツ少年団の最年少団員として街中での大行進に初参加する「ボク」。
ハインツに助けてもらうも、長い行進にフラフラになって涙を流しながら市電で帰るハメに・・。。
SA(突撃隊)、ヒトラー・ユーゲント、ドイツ少女同盟にドイツ少女団、
そして「ボク」のような14歳までの年少男子が所属する「ドイツ少年団」ですが、
ドイツ語では"deutsche-jungvolk"、マークもハーケンクロイツではなく、
「ジークルーン」なんですね。
冬季救済事業での募金集めも年上のハインツは「ボク」と違って絶好調。
共産主義者の父を持つギュンターは学校でも除け者扱い。
そして街中で「きったねぇユダヤのブタ野郎!」と罵倒されているのは
あの「フリードリヒ」です。
ひとりの団員が飛んできて、「やれよ、いっしょに!」
1938年、13歳となって、49歳を迎える総統誕生日の準備に向かいます。
「貯金帳がいっぱいになったら、フォルクスワーゲンでアウトバーンを走れるようになる。
そしたらドイツ中、オストマルクまで旅行できるぞ」と父も喜んで送り出します。
迎えに寄ったハインツの大きな家では、ガラスの額に入った大きな総統の写真が
少年団へプレゼントされます。ハインツの父は2人に語ります。
「君たちが羨ましい。君たちの味わうことのできる未来が羨ましい」。
続いて強制的にドイツ少年団へ入団したギュンターの家へ・・。
一度、投獄もされたギュンターの父は「ヒトラーは我々を戦争に引きずり込むぞ!」と
怒りを爆発させ、「出ていけ!」
そして玄関の外でお母さんが子供たちにすがるように言うのです。
「お願いだから、あなた達、今のコト、聞かなかったことにしてね」。
う~ん。ヒトラーの悪口を言った親を、子供が密告したって話、ありますからね。。
供給物資として、各家庭から中古品や古鉄回収にみんなで繰り出し、
ボクも自然に参加してしまった「水晶の夜」事件を巡って、ハインツは
「ドイツ少年団とヒトラー・ユーゲントは参加しないことに決まっていたんだ」と告白します。
「ぼく、親父がそのことで電話で話してるのを偶然、聞いてしまったんだ」。
1939年、ついに14歳となり、晴れてヒトラー・ユーゲントとなった「ボク」。
新しい小刀に刻まれた「血と名誉」、黒い柄に掘ってある「HJ」の印も磨き上げ、
これまでと違う赤と白の腕章はしっかり縫い付けないとずり落ちたり、
ぐるぐる回ってハーケンクロイツが内側になってしまうのです。。
しかし、ポーランド侵攻によって英仏との戦争も始まっています。
年上の分団長ハインツは、17歳になったらすぐに志願すると宣言。
すると団員たちも口々に言い始めます。
「ぼくは空軍が良いなぁ。格好良い制服を着てるしなぁ。急降下爆撃機に乗って・・」。
「ばか!そんなにぶくぶく太ってて、あの急降下爆撃機に乗り込めもしないだろ」。
「ぼくは参謀本部の将校になるんだ。危険性が無いしね。
金のボタンに金の飾り紐。襟には騎士十字章。女の子が振り返って見るよ」。
「この卑怯者!危険のないポストを探しておいて、騎士十字章もないもんだ」。
「ぼくは海軍に行くんだ。潜水艦さ。これこそ本命だよ。どんな船だって寄せ付けないんだ」。
「水の中ばっかりいてどうするんだい。ぼくは陸軍だ。フランス人を皆殺しにしてやる!
それにさ、フランスには男狂いの綺麗な女の子がいるんだって。ヒヒヒッ」。
そして翌年、17歳となったハインツは志願兵となり、彼の後任の分団長には、
ヒトラー・ユーゲントは嫌だけど、みんなと一緒にいたいと考えている程度の
やる気のないギュンターが選ばれてしまいます。
「ボク」は父親から、なんでお前が選ばれないで共産主義者の息子が・・と叱責。。
1年後、下士官となり2級鉄十字章のリボンを付けたハインツが負傷して帰還します。
「英雄の話」をせがむ団員たちに彼が見た、たった一人の英雄の話を・・。
それは手榴弾訓練場で出来事で、穴に下りた1人の兵が導火線を引いた後、
掩蔽地の他の兵が待機している方に投げてしまい、その瞬間、
教官の上等兵が駆け寄って、手榴弾の上に腹這いに身を投げた・・。
ナチのエリート養成学校を描いた「ナポラ」という映画で、同じようなシーンがありました。
とても印象的だったので良く覚えていますが、本書のパクリなんですね。
ヒトラー・ユーゲントの訓練もカービン銃の組み立てや、射撃訓練と
軍事教練の色が濃くなってきます。
そんななかで天才的な狙撃の才能を現すのは、
「急降下爆撃機に乗りたい」と言っていた「ふとっちょ」です。
しかし、街を襲った空襲によって「ふとっちょ」は瓦礫に埋まり、死んでしまうのでした。
あ~、この名前もない「ふとっちょ」は良い味出してましたがねぇ・・。
1942年、17歳となり、徴兵検査を自ら受ける「ボク」とギュンター。
志願兵として兵科を自由に選べるにもかかわらず、彼らの希望は「歩兵」。
ただし、「2人揃って同じ部隊」という条件付きです。
その結果、補充兵として送られた先は、地獄の東部戦線・・。
「ギュンター!」 と叫んで、突進してくる少尉の姿。
「君たちじゃないか!君たち2人!信じられない!」と力任せに肩を叩くのはハインツです。
そんな再開も束の間、敵の捕虜を捕まえる任務に出かけたハインツが
絶体絶命の危機に。
榴弾と弾丸が飛び交う地獄の真っ只中に、胸壁を飛び越えて走り出すギュンター。
「ハインーツ!」 とギュンターの叫びが響き渡るのでした。
え~、本書はコレにて終了です。
いつも小説はネタバレになりますから、最後の最後までは書かないんですが、
ホントにこのシーンで終わります。表紙の絵と同じ状況だなぁ。。
3部作の最終巻、「若い兵士のとき」に続くんでしょうか。
まるで「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」をテアトル東京で観て、
「なんだよ。ハン・ソロはどうなっちゃうんだよ!」と思ったのと同じ感じです。
まさかアレもパクリだったりして・・。
そういえば「ダース・ヴェイダーとプリンセス・レイア」良かったっス。ほろっと・・。
端折りましたが、ドイツ少女同盟(BdM)の色っぽいネーチャンも出てきたりと、
エビソートは豊富で、キャンプも含めた彼らの活動や、
それぞれの考え方、またそれぞれの家庭の状況などの違いも面白いところです。
15歳の時、同級生たちと高尾山へ内緒で一泊しに行ったことも思い出しましたし、
登場人物の誰かしらには共感を持つんじゃないでしょうか。
「あのころはフリードリヒがいた」ともリンクしていますし、
巻末の「注」では、ユーゲントの単位、例えば最少が15人の「班」で、
それが3つ集まって「分団」、分団が3つで「団」、団が4つで「大隊」、6大隊で「連隊」と
細かい情報も掲載されていて、非常に勉強になりました。
ヒトラー・ユーゲントに興味のある方は読んで損はありません。
第二次世界大戦ブックスの「ヒトラー・ユーゲント -戦場に狩り出された少年たち-」と
合わせて読めば、より理解できるでしょう。
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