まず内容紹介。
上巻は冥王星会戦からヤマト発進~冥王星基地攻略
~赤道祭~ガス生命体、と続き、異次元断層でのメルダとの出会いまで。
下巻はドメル登場~ビーメラ星~七色星団~レプタポーダ~ガミラス
~イスカンダル~デスラー白兵戦、そして地球への帰還まで。
長くなるので、まず結論から書いておこう。
作家さんはすごく頑張って書いてるとは思う。
あの「ヤマト」のノベライズなのだから、
プレッシャーだって相当なものがあっただろうし。
ただ、絶対的に分量が足りない。
アニメ本編だって最後まで「尺が足りない」って言われ続けたくらい
情報量の多い作品だった。
それをこの分量の文章にまとめようと言うこと自体が
もともと無理な作業なのだと思う。
上下巻、計712ページ。
ざっと字数を数えて計算してみたら、原稿用紙1500枚くらいかな。
(たぶん、文庫にしたら1000ページを超えるくらいになる。)
普通の小説として考えたら大長編だろう。
それでも足りないくらい、ものすごい情報量だったということだ。
出版する側の事情というのもあるんだろうと思うが、
本書を読む限り、個人的にはこの3倍は欲しかったなあ。
いろいろ工夫してるのは、あちこちから感じられる。
例えば第1・2話や七色星団会戦はかなりページ数を割いて
じっくりと書き込み、その代わり
9話や14話に相当する内容はばっさりカットされていたりと
メリハリをつけている。
しかし、尺の少なさはいかんともしがたく、特に七色星団後の
ガミラス~イスカンダル~帰路の次元回廊~地球までは
ダイジェスト感が半端ない。
あれだね、毎年、年末にやる大河ドラマの総集編みたいである。
小説としての体裁よりも、アニメ版のストーリーをなんとか
この分量に収めなければならない、という "使命感" を感じる(笑)。
まあ、この本を買う人の99.99%は本編を見ている人なんだろうから
問題ないと言えば問題ないのかも知れないが・・・
もし、2199を全く見たことの無い人が読んだら
ワケが分からないんじゃなかろうか。
それでも、小説版なりの特色を出したい、っていう思いも感じる。
例えば、太陽系に別れを告げるシーンでは、オリジナルと同じく
古代は沖田と艦長室で過ごしたり、
次元潜航艇との戦いでシーガルに乗り込むのが
岩田&遠山ではなく篠原&玲だったり、
七色星団戦の展開がアニメとちょっと異なっていたり。
その他、アニメでは語られなかった設定に触れていたり。
でも、その代償なのかも知れないが、
ヤマトだったらあのシーンは外せないだろう、ってシーンが無かったり。
例えば、第1話で地表に不時着した古代と島が、大和の残骸を見るシーン。
いわゆる「夕陽に眠るヤマト」のシーンがばっさりカットされているとか。
エンケラドゥスで古代が雪をガミロイドから救い出すシーンが無いとか。
「えっ、あのシーンがないの?」って思うところがちらほら。
ストーリーを収め、戦闘シーンにもそれなりのページ数を割いていくと、
結果的にキャラの掘り下げにしわ寄せがいくってことかな。
古代と雪の恋愛感情の描写も最低限だね。
アリバイ的に「いちおう触れておきます」程度。
私が個人的に一番知りたかった、終盤のデスラーの心理状態なんだけど
それもアニメ版とさほど変わらず(ちょっと膨らませてはあったかな)
けっこうあっさり。
このように、アニメで描かれなかった内容を期待すると、当てが外れる。
アニメ版の補完には(全くとは言わないが)ほとんどなってない。
(アニメの内容を収めるのだけで精一杯で、それ以上を求めるのは無理。)
やっぱり、すべては「尺の問題」なのだ。
理想をいえば、「ペリー・ローダン」シリーズみたいに
文庫1冊に2話分収録して、全13巻とかなら分量的にも充分。
で、月に1冊ずつ刊行で1年かけて完結。
(もちろん、初回は1・2巻同時刊行で)
・・・なーんていいなあって思うんだが、やっぱ無理だろなあ。
ノベライズって、どういう形が一番いいのだろう。
映像作品を見ていない人でも楽しめるように、
独立した小説としての形態を重視してじっくり書き込んでいくもの。
映像作品を見ていることを前提に、
読むことによって作品を追体験させることに徹しているもの。
昔、ハヤカワ文庫で出てた「スター・トレック」シリーズのノベライズは、
どちらかというと前者に近い作りを指向してたように思う。
この「2199」は明らかに後者。
それが悪いとはいわないけど、「小説」としての完成度っていう観点からは
残念ながら高い点はつけられないなあ。
前にも書いたけど、作家さんは頑張ってる。
「尺の制限」という足かせの中で、精一杯努力してるのは間違いない。
今はハヤカワ文庫に入ってる「蒼穹のファフナー」(冲方丁)は、
やはり2クール26本のアニメ作品のノベライズだけど、
分量は文庫本1冊のみ。
内容は、アニメ本編とはパラレルワールド的な独自の世界を展開してる。
こういう方法もアリとは思うけど、これはヤマトには合わないだろうなぁ。
世の中には、ファンに手によるヤマトの二次創作小説や
"非公式"ノベライズは、おそらく星の数ほどあるのだろうけど、
それらと決定的に異なるのは何と言っても
"公式" ノベライズであるということ。
そして「2199」に関しては、今のところこれ一作しかない。
そういう意味では貴重な作品ではある。
「ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント」という、
非常に良く出来たノベライズ作品を最近読んでしまったのも、
この作品への評価がちょっと厳しくなる理由かなあ。
まあ、あちらは「メビウス」という枠はあるにしろ、
基本的に自分の考えた話を、好きなだけ膨らまして書いてるので、
比べてしまうのは酷だろうけどね。
あと、もうひとつだけ。
表紙が加藤直之画伯の手になるものなんだが
(絵柄が好みに合うかどうかは置いといて)
これ、けっこう凝ってる。
下巻を左に、上巻を右に置いて並べると表紙の画がつながる。
これは良くあるパターンなんだが、
そのまま下巻ごと上巻ごとに裏返しても、裏表紙同士の画がつながる。
さらに、カバーを外して広げてみると、
上巻も下巻もそれぞれ一枚の画として成立している。
地味だけど、これに気がついたときけっこう驚いた。
本書をお持ちで、これをご存じなかった人は一度お試しあれ。