<裏表紙あらすじ> 熊野山地の集落で台風による山崩れが起こった。パニック障害と離人症性障害のため入院中だった僕は、いてもたってもいられなくて、病院を抜け出した。現地対策本部で出会った不思議な老人ワタナベさんと二人の消防団員とともに、土砂崩れで流された墓地の応急処置に向かうが……。第13回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した表題作のほか、書き下ろし中編「ウスサマ明王」を併せて収録する。 前回の「嘘神」に続いて日本ホラー小説大賞受賞作です。第13回の短編賞。 「当時、生きているのか死んでいるのか分からないような僕の目を覚ましてくれたのが他人の死だったことは、言いづらいが本当のことだ。それも大勢の人の死がきっかけだった。それで、僕は救われた。」 という書き出しではじまって、精神科に入院中だった僕が、台風による被災地へ向かうという風にストーリーは展開します。サンマイというのはお墓のことで、災害で崩れたお墓を修復(?)しに向かう、と。 緊迫した状況なのに、不思議な老人ワタナベさんのちょっととぼけたキャラクターとカッコつかない僕の様子とあいまって、どことなくユーモラスな雰囲気。 文庫本で66ページで終わってしまうので、ストンと幕切れを迎えます。 怖いといえば怖いラストなのですが、個人的には怖いというよりは、見事、と言いたくなるラストで、するすると巧みな話術で、思いがけない地点に連れ去られたような感じ。いいですね。 そこで再度冒頭を読み返すと、また味わい深い。 わりとありふれたアイデアなんですが、うまく決まったな、と思いました。 もう一編収録されている「ウスサマ明王」は一転して正統派のホラーで、アクションたっぷりの戦闘シーンもあります。 全然タイプが違うので、びっくりしますよ。こういうの、あんまり小説では読んだことないですね。 最新兵器対呪いというのは映像で見ればすごそうな内容ですが、文章でしっかり伝わってきます。 このあと著作は出版されていないようですが、要注目の作家だと思いました。
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