西條奈加『善人長屋』
質屋千鳥屋が営む長屋は差配も店子も情に厚く、人呼んで”善人長屋”。しかしその本当の姿は盗品の古買、騙り、美人局などなど小悪党の巣窟。ところがそこに、ふとした手違いから本物の善人が越してきて…人情捕物帳。短編9話収録。
西條奈加の作品、これまで幾つか読んできましたが、やっぱり本質的にすごく優しいです。だからこのお話も、悪人がみんなで力を合わせて人助けをするものなんですが、あんまり悪人に見えない…技術を持った善人ってだけなのが、ちょっと物足りなく感じました。どこかで長屋の住人達の行いで泣いてる人間がいることも間違いないってのは、示して欲しかったな。
長屋以外の悪人達も、大物は基本綺麗で義を通す奴らばっかりで、しかもそれが結構何人も出てくる。全体として甘ったるいほどになってしまっており、読んでてほっこりはするけれど、少しマンネリします。
特に面白かったのは”源平蛍”。もともとファンタジー要素のある作品も書いている作者なのですが、この話で出てくる悪人のスキルは最早魔術レベルで、しかも地味でかつ格好良く描かれている。その匠の技を見るためだけに何人もの悪人が集まってきているってのもグッと来ましたね。
最近続編が出たようですが、私としては金春屋ゴメスのシリーズを書いて欲しいんだけれど。もう出ないのかね。