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平和の経済的帰結

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 タイトル超有名、しかし今となっては稀覯本。

ケインズ全集〈第2巻〉平和の経済的帰結 (1977年)

ケインズ全集〈第2巻〉平和の経済的帰結 (1977年)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 1977/04
  • メディア: -
The Economic Consequences of the Peace

The Economic Consequences of the Peace

  • 出版社/メーカー: Public Domain Books
  • 発売日: 2005/05/06
  • メディア: Kindle版

 書店じゃまずお目にかかりませんが今でも東洋経済社のケインズ全集は町の図書館でも常備してある筈、私は最初に都立中央図書館の書架に有った本書を読んでから次いで地元大田図書館の書庫に有ったものを借り出して読みました。「あの」ケインズ全集ですから、って昔の図書館はこう言う個人が手に入れ辛いアカデミックな書籍に触れる機会を提供する場だったので有るのが当たり前なんですがね。今時の図書館経済学コーナーは書店で平積みしてあるタレント評論家の半年で消える本ばかり並んでいるのが現実だ。  本書もそんな時事ネタ本でして戦勝国イギリスの大蔵官僚として第一次大戦後のパリ講和会議にロイド・ジョージ首相に随行し、フランスのクレマンソー首相やアメリカのウイルソン大統領らの地域の安定と言うビジョンの無いやり取りに幻滅して辞職したケインズが官僚時代に見聞した会議の流れを書いた一般向けパンフレットです。後にナチスを批判したハイエクの「隷属への道」がベストセラーになった様に本書も世界中の言語に翻訳されて当時のベストセラーになったそうな、「報復と賠償」を声高に叫ぶ英仏両国は昨今の韓国マスコミと中共政府のプロパガンダとその尻馬に乗っかる日本の「良心的メディア」の構図に何とも似ています。  その英仏の破滅的な締め付けがワイマール共和国(ドイツ)の絶望的状況を作りそれがやがてナチスに繋がると言う流れは本書でケインズの予言するところですが、今日韓国メディアの言う「極右政治家」の橋下大阪市長や安倍総理大臣の大衆人気が高いのも「良心的メディア」が「日本が再び戦争の出来る国になる」とか危惧しつつもむしろ「右傾化」を煽っているとしか言えない滑稽な状況がヴェルサイユ条約の劣化コピーと見る事も出来ると思うんだけど。だから「平和の経済的帰結」も図書館の書庫ではなく中韓と絡めて改めて新書で平易な解説本にすればけっこう売れると思うんだけど。

 つまりは無条件降伏をしたでもないドイツは提示された降服の条件(ウイルソン大統領の14箇条)を飲んで休戦に応じただけで、件のウイルソン大統領は領土併合や賠償金の請求をすべきでないと演説したそうな。そして戦勝の勢いで総選挙に打って出たロイド・ジョージ首相は解散時には賠償の請求を考えていなかったにもかかわらず選挙の票欲しさに賠償金の請求を選挙公約に挙げざるを得なくなったり、解散時には合理的な「ヨーロッパの恒久平和」と言うビジョンを持っていた筈が票目当てで大衆の復讐感情に訴える一国主義な立ち位置に変わってしまったと言うのがケインズの見立てね。  国土が戦場となったフランスは炭鉱が破壊されたり農地に塹壕を掘られたり鉄条網を放置されたりと災難でフランス国民の復讐心を体現したかのようなクレマンソー首相は侵略国家にして敗戦国のドイツなぞ消滅しても構わないと言うスタンスでして、大衆人気の気になるロイド・ジョージや正義と公正を重んじるウイルソンを良い様にあしらってしまい会議の目的をヨーロッパの恒久平和から復讐と賠償にすり替えちゃうわけです。  ただ、ケインズの見立てでは「正義」ではなく「経済」が重要だろう?と言う事で。つまりはドイツが休戦に応じたのは経済が破綻して戦争が継続出来なくなった事が大きい上に他の戦勝国にせよ敗戦国にせよ(アメリカは除く)農業や工業に注力すべき人員と資材を割いて戦争に充てた為食糧生産や工業生産の落ち込みが激しい事を数値を挙げて説明しています、オーストリア・ハンガリー帝國なぞハンガリーが独立した事で農業も工業も悲惨な事になったそうです。  本書のキモはドイツの賠償額の算定なんですが(コレはほぼ百年前の時事ネタで21世紀の読者には判り辛い上に長過ぎる、この辺をざっくりまとめると今時の新書のボリュームに良い感じに収まると思う)、ケインズの算定では戦勝国側の請求額は不当に高額過ぎるとか。更にドイツは今後何十年間にもわたって返済を余儀なくされるのですが、返済の原資となるべき植民地や炭鉱に商船団や鉄道貨車までも賠償として取り上げられて返済のしようが無いと見積もった上「ドイツを近代以前の状態に戻すつもりなのか?」と皮肉っています。  栄養失調状態のドイツの児童を生涯にわたって謝罪と賠償を運命付けられた存在と憐れんで見せてこの様な復讐は恒久平和では無く別の形の復讐を生むだけではないか?と言うのは講和から10年少々でナチスの台頭を果たしたドイツを見れば明らかな通りです、「自分がやらなくてもいずれ誰かが同じ事をした」とはヒトラーの言葉ですが本当にこう言う問題は正義を振りかざすのでは無くドライに金勘定で考えた方が実は合理的なんだなと。  翻って現代の東アジア、観光も商業活動も日韓・日中とも盛んだったのを韓国メディアの反日キャンペーンに政治家も配慮せざるを得なくなったり中共のプロパガンダで観光客や商取引が停滞したりと「り(利と理)」ではなく目先の感情で言いたい放題して彼らの言う「日本の右傾化」を却ってどんどん促進させたりと何がしたいんだかね?バックグラウンドや経緯は違うんですけど流れと言うかこの先何処に収れんされるか?と言うヒントにはなる一冊だと思います。

ナチスの発明

ナチスの発明

  • 作者: 武田 知弘
  • 出版社/メーカー: 彩図社
  • 発売日: 2011/09/20
  • メディア: 文庫

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