〈新青年〉他、戦前の大衆娯楽小説誌に紹介された〈ウィアード・テールズ〉誌掲載作品の翻訳・翻案を集めたアンソロジー兼研究書です。現代かなづかいなので読みやすさについては心配ありません。 登場人物を日本人に変更するくらいは当たり前で、設定や結末をいじったものもちょこちょこ見られます。日本の読者の好みに合わせるために改変した結果、たまに明らかな無理が生じていることもありますけれども、逆に当時の世相を取り込んだ変更でより自然な流れになっていることもあり、翻訳者たちの苦闘が偲ばれます。 収録されているのは、ほぼ全てが聞いたこともない作家です。わたくしの勉強不足だけではなく、しっかり調査してもやっぱりわからなかったという人がたくさんいます。さすがパルプマガジン掲載作だけあるわーとしか言いようのない、お察し下さいな出来の作品もありますけれども、油断していると思わぬ傑作が不意打ちを食らわすので気が抜けません。世相を反映した軍事科学小説でありながら、二段構えの脱力が待つ、ラルフ・ミルン・ファーリー「成層圏の秘密」が好きです。 作品に負けず劣らず面白いのが各編に添えられた詳細な解題で、原作からの変更点や日本での発表当時の挿絵図版も添えられています。単純に怖い話を読んで楽しめる上に日本の幻想怪奇文学受容史の一端まで拝める、大変お得な仕様になっています。 編者の人たちによる巻末の論考も、戦前の小説翻訳事情があふれていて読み応えがあります。ところでここに入っている〈新青年〉や〈少年少女譚海〉の広告に、乱歩やら大佛次郎やら木村荘十の名前がひしめいて気になって仕方ないのですがどうしましょう。
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