1949年、AID(非配偶者間人工授精)による日本で最初の人工授精児が誕生した。 AIDとは他人の精子を提供してもらい人工授精する不妊治療で 主に男性不妊の夫婦に行われる。 しかしAIDで産まれた子たちは真実を知ったとき、 アイデンティティクライシスに陥ることがある。 自分の遺伝的なルーツを辿りたいという本能的な欲求が目覚めるためだろう。 それに加え、出生の事情を隠されてきたことに憤り、 今まで過ごしてきた家族との時間が 虚構に感じられてしまうためでもある。 しかし精子提供者の情報開示はされていないため 遺伝上の父親を知ることはかなり困難だ。 日本ではAIDを受けることに後ろめたさのある夫婦が多く、 子どもへの告知もタブーとなっていた。 そのため家庭内が上手くいかなくなることが多い。 AIDは子どもを授かることが目的なので、 産んだ後、家族を形成するところまで、 考えをめぐらすことがなかなかできないのだ。 この本ではAIDの歴史、 AIDで産まれた子どもたち、母親になった妻たちの苦悩、 男性不妊の現状、諸外国の状況、等々が丹念に取材されており、 家族について考えさせられる内容になっている。
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