なぜ、あのリーダーの職場は明るいのか?―ポジティブ・パワーを引き出す5つの思考法
- 作者: ダイアナ・ホイットニー、アマンダ・トロステン=ブルーム、ケイ・レイダー
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2012/11/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介僕の応援する中日ドラゴンズは、ファイターズの高卒新人大谷くんにプロ初勝利を献上し、再び借金2桁目前にまで来ている。選手起用ど素人の僕らが見ていても、高木監督の采配には首を傾げることが多く、たまにテレビ中継を見ると、監督がベンチで選手やコーチと話しているシーンがほとんどないのが気になって仕方がない。珍しく高木監督が選手と会話を交わしていると思って見ると、井端の応答ぶりに腹を立てて井端を追いかけてベンチ裏に出て行こうとして別の選手に制止されている映像だったりする。ベンチの雰囲気は相当悪そうだ。 それなのに、マスコミ経由では監督はペラペラしゃべっている。そしてそのほとんどが自分が起用して期待通りに動かなかった選手に対するネガティブな評論である。ものは言い方があるだろうと僕でも思うが、こういうのは言うべきなら本人に直接言うか、そうでなければ言わない方がよい。マスコミ経由で選手に伝わるなんて最低だが、そういうことを頻繁にやる。起用した監督自身の責任は棚に上げて、選手に対する恨み節を言うのは本当に良くない。そんなことは素人の僕にだってわかる。 こんな監督の下では選手は本音のところでは働きたくないんだろうなぁと同情する。ブランコが、DeNA横浜に移籍してホームランを量産しているのはなぜかと時々考える。出戻りの山崎を獲ってきて四番一塁で競争させようという腹はわかるが、監督の普段の言動からブランコを信頼していないことが見え見えで、ブランコが腐っていたとしても何ら不思議はない。「外角低めにスライダーを投げておけば簡単に三振する」などとブランコについてネガティブなコメントをマスコミに対してしているより、気持ちよく打たせるにはどうしたらいいかを考えて、調子の良い時のブランコを思い出させるようなひと言を本人に直接伝えるべきだったと思う。 結果的に、選手の長所を思い切り褒める中畑監督の下で、ブランコは気持ち良く働いている。中日の前任・落合監督も選手思いのコメントを対外的には出す人だったが、ブランコの扱い方でみても、高木監督は中畑監督にすら及ばない。高木監督のマネジメントを見ていれば、組織のパフォーマンスを悪化させるにはどうしたらいいかがよくわかる。 前置きが長くなってしまったが、本書を読みながら、こういう本は高木守道氏に先ず読んでもらいたいと思った。 但し、書かれていることはそれほど目新しいことではない。本書の原題は「Appreciative Leadership(価値探求型リーダーシップ)」とあり、文中のキーワードは「AI(エーアイ)」、Appreciative Inquiryのことであるが、いずれも頭に「appreciative」が付いているだけに、要するに相手の人間性をポジティブに受け止め、組織への貢献の可能性を前向きに評価していく組織構成員とのコミュニケーションのことを言っている。序論の中で、著者はAIのことを「組織の強みに焦点を当てた参加型ワークショップを通じて、人々が協働でビジョン、ミッション、戦略、そして組織やコミュニティの文化やアイデンティティを再創造するための手法」(pp.26-27)と定義している。「ポジティブな価値を探求し、現実を肯定的に捉える対話を行うことで、何百人、何千人もの人々が、自分たちにポジティブな力が秘められていることを自覚し、望ましい未来を描き、共通の行動指針を生みだし、未来に向かってどのように一歩を踏み出すのかを決めるのである。AIは人々の関係性を深めることを通じて、より良い結果を生みだし、それがさらに関係性を深めていくというサイクルを描く」とある。 なんだか読んでいると、これって米国では「リトリート」と言われる、参加型ワークショップの手法そのものであるような気がする。リトリートには外部からファシリテーターを呼ぶことが多いと思うが、本書の著者が「価値探求型リーダーシップ」と呼んでいるのは、こうしたワークショップに臨む組織のリーダーが持つべき姿勢のことだというのがわかる。 要は組織のリーダーたる者、組織の構成員ひとりひとりに興味を持つべきということなのだろう。それが、組織の構成員ひとりひとりの持つ潜在力を引き出して組織全体のパフォーマンスを上げることにも繋がるのだ。「ポジティブな潜在力を探すためのそれぞれの視点は、人と会い、話に耳を傾け、積極的に関わり合うにあたって、相手に対する好奇心と思いやりを持つ必要があることを教えてくれる。」(p.75) では、どういう問いかけをすればいいのか?著者は、「誰が、何を、どこで、いつ、どのように」という質問を、ポジティブなトーンで行うべきだという。これにより、相手の秘められた強み、希望、夢を明らかにして、自分が臨んだ結果を確実に得るためには誰をどのように巻き込めばいいのかが、何をどこからはじめていけばよいのかが明らかになるのだという(pp.109-110)。ニュアンスは違うかもしれないが、事実確認のための5Wの質問を繰り出して、自分が何をしたらいいのかを自身で言わせるというインタビュー型ファシリテーションとも通じるところがありそうだ。 さらに、著者は、厳しい状況にあってもリーダーが笑い声を上げることで、共に働くメンバーに心の平穏がもたらされる、責任を負い、権限を持つ立場にいる者がユーモアを忘れないでいることが重要だ(p.138)。 相手のポジティブ面を見よということでも、次のような記述がある。高木監督がいい反面教師であることは一目瞭然だ。
叱咤するより励まし合おう! 部下の強みを生かし、褒めることで伸ばす。創造的な作業を自律的に進める組織をつくる最新のマネジメント手法を第一人者が徹底解説。職場を生き生きとさせる5つの思考法が身につく。
日々のコミュニケーションに目を凝らせば、その答えを見つけることができる。家庭で、学校で、軍隊で、そして職場で多くの人が学ぶことになるのは、人が注目するのは不平や不満だということであり、問題を見つけ出し、是正することが奨励されるということであり、失敗の原因を突きとめ、失敗に関する知識を蓄えることで将来の失敗を未然に防ぐことが求められているということだ。もちろんそれが間違っているというわけではない。ではどうしたらいいのか。高木監督の参考になりそうな示唆も実はこの後に書かれている。
しかしその一方で、不満を口にすることは、自分自身が非難されていると相手に思わせ、恐れを抱かせ、平穏な心ではいられない職場環境を生みだすことも事実である。問題解決に秀でるということは、問題がなければ能力を活かせない、自分に自信が持てないということなのだから、強みではなく、問題ばかりに目を向けるようになるのだ。また、失敗の要因分析を行うことは過去を振りかえることであるため、未来の革新を実現するために何が必要かという視点を見失うことが多いのである。(p.162)
制度によってつくられた習慣を変えることは、個人的な習慣を変えることと同様に、あるいはそれ以上に難しいが、成功の要因分析を行うことは、「ガタついた状況ばかりに注意を向けてしまう症候群」を克服する1つの手段である。チームメンバーや、さまざまな部門からメンバーを集め、自分たちが最大限の力を発揮できる状況を生みだす要因を探し、話し合う場を設けることで、メンバーにはっきりとしたメッセージを伝えることができる。つまりリーダーである自分はメンバーを高く評価しており、その成功がどのように生みだされるのかを理解しようと努めているということだ。一度お試しいただければ、そこからポジティブな変化が生まれてくるに違いない。(pp.162-163)あとは、バーバラ・フレデリクソンの著書の受け売りだが、こんなことも言っている。これまで述べてきたことの繰り返しのような印象もあるが、取りあえず紹介すると、現代の組織に置いては、リーダーたちは協働の促進や業績の達成、さらに革新の実現をめざしてさまざまな取組みを行なっているが、こうした取組みを成功させるためには、思いやりや愛情、忍耐強さや仕事における遊びの感覚といったポジティブな感情が必要になるということらしい(p.166)。「リーダーに求められていることは、メンバーを思いやり、安心して学べる環境を整え、ポジティブな形での違いを生みだすために力を講師することなのである。メンバーはポジティブな感情を生みだす環境のもとで日々を過ごし、仕事に取り組むことを求めているのである。(同) ―――高木さん、本気でチームの立て直しを自分自身でやるつもりなら、これくらいのことはトライして下さい。 ただ、序盤の4章ほどを読んでしまうと、後に書かれているのは同じことの繰り返しのような気がして、後半読み続けるのがしんどかったことも付け加えておきたい。