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「言語小説集」(井上 ひさし)

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井上ひさしは日本語の達人にして言語遊戯の達人。その彼が「中央公論・文芸特集」に1992〜95年にかけて掲載した短篇を編んだ本。図書館で偶然見かけて、《本に呼ばれて》借りてきた。これは読まずばなるまいと。
言語小説集

言語小説集

  • 作者: 井上 ひさし
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/03/30
  • メディア: 単行本
「括弧の恋」  ワープロの内部で起こる、いわゆる役物記号文字(●とか★とか▲、÷、§、〒、†、→、#、%、などなど)が擬人化され個性を持っており、始め鉤括弧記号‘「’に恋する終わり鉤括弧記号‘」’をめぐっての否定派と同情派が入り乱れ、大論争から大喧嘩、大立ち回りに至る様子を描く。抱腹絶倒。  ワープロ自体を扱った小説だと清水義範などの誤変換遊びのがいくつかあったが、この作品みたいに文字記号自体を擬人化して遊ぶのは珍しく、さすがに井上ひさし。 「極刑」  ムガール帝国での子供に言葉を教えないとどうなるか?という言語実験に材を取った(歴史的事実かどうかはわからないが)劇団の演目脚本にまつわる数奇な話。  その配役の一人の女優が「文法的にも間違いで意味もなさない台詞」を喋らされ心身にダメージを受け、その後遺症のしゃべり方がずっと残る、そのため哀れを催して、その恋人はズルズルと同棲を続けるという顛末。展開が読めなかった。 「耳鳴り」  言語小説と言えるのかなぁ? むしろ不条理ミステリー、と言うかホラー。言語小説っぽいところは、耳鳴りの「自覚的表現」として挙げられるオノマトペの羅列(ガーン、キーン、シャー、など)の多さか? 「言い損い」 母親へのエディプス・コンプレックス?によるトラウマで言語障害を抱えてしまい、(特に性的に緊張した場面で)語順を間違えるという症状を呈した大学院生の憂鬱。最後は少し明るい展望。 「五十年ぶり」  相手のかすかな発音や語彙から出身地を細かく見抜く方言学の達人の老人が、戦中に特高刑事に誤認逮捕されて虐待された時に聴いた方言の記憶を蘇らせてささやかな復讐を果たす。爽快感。 「見るな」  日本語の起源が弥生時代のスマトラのマレー語であることの例証を求めて現地を訪れる言語学者。確かに語彙が共通するものがたくさんあったが、その真相が明かされるオチが効いている。 「言語生涯」  言語中枢のブローカー領への打撃による「似た音への置換」が音ばかりか意味にまで及ぶ症例について講演する演者の正体が最後に明かされる。このオチはちょっと無理、強引な展開だが面白い。 * 総じて〈言語SF〉みたいな突拍子もない奇想ではなくて、実際にある言語障害とか、方言とかのレベルでのストーリーが多かった。

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