朝井さんのデビュー作で第22回小説すばる新人賞受賞作です。 構成も文章も丁寧に練られているなあと思いました。 高校の男子バレーボール部キャプテンの桐島が部活が辞めるという噂をきっかけに彼の周囲の同級生たちの内面や行動が少しずつ変化していく様子が描かれます。 同級生たちは野球部(幽霊部員)、バレーボール部、ブラスバンド部、映画部、ソフトボール部、バドミントン部などです。男女ともに運動部比率が高いかな。 彼ら彼女らはそれぞれのポジションで高校生活を謳歌しながら、それぞれの抱える悩みや鬱屈を描き出していきます。 すべての高校がこうだとは思いませんが、今の高校生ってこんな感じなのかな、とも思いました。 いい意味でも悪い意味でも均質な生徒が集まる高校で、スクールカーストなる階層分けが進んでいます。オシャレでカノジョもいてイケてるグループと、そうでないダサいと言われるグループ。同じクラスでもそれらのグループが交わることもありません。 ただ、「上」のグループだけが高校生活を謳歌しているのかというと、必ずしもそうではなく、「下」のグループだって楽しんでいる様子が描かれます。 それが端的に表れていたのが菊池宏樹の章です。 宏樹は「下」の生徒である前田涼也たち映画部を見て、あることに気付きます。野球部の幽霊部員なのに野球部の誰より上手く、カノジョもいて、なんでも器用にこなす宏樹ですが、涼也たちは宏樹が持っていないものを持っていることに気付きます。桐島もまた。 それまでの章がすべてこの菊池宏樹の章のために用意されていたような気がしました。もちろん、それぞれの登場人物が楽しみ、苛立ちや不安を抱えている(もちろん後者は表層的なところには現れ出ません)ことが個々のキャラクター像をもって描写されています。 まあ、奔放なキャラには読んでいてちょっと敬遠したい気持ちはありましたが、それも含めて朝井さんの力量なのかなと思います。 「光」や「ひかり」といった言葉があちこちに現れていて、これが朝井さんの込めたかったキーワードなのかなと思いました。
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