カズリは隣家の悪童コリンに取られた玩具を取り返そうと躍起になっていた。
三歳の子供にはまだ、友達に玩具を貸してやろうなどという意識は薄く、逆に欲しいものはなんでも自分のものと思ってしまうといった傾向があるものだ。取っ組み合いをはじめた子供を発見して、カズリの母親が駆けつけてきた。同時にコリンの母親もやって来て、それぞれは自分の子供が怪我をしていることに気がついて頭に血が上った。
「なんてクソがきなの!」
「あんたの息子は馬鹿じゃないの!」
子供が争っている横で母親同士がつかみあいをしていると、それぞれの夫が駆けつけてきて、額から血を流している妻の姿を見るなり、女同士の喧嘩に加勢しはじめた。
カズリの父親は政府筋の役人でその部下たちもすぐに駆けつけて喧嘩に加わったかと思うと、軍人であるコリンの父親の仲間も見過ごしてはいない。両家の間の地面にはくっきりとした線が引かれ、その境界線を巡って大勢の大人たちがそれぞれに武器を手にした殺し合いがはじまった。太刀を手に切りつける者、拳銃で撃ちまくる者、機関銃をぶっ放すもの、遂には大砲まで担ぎ込まれて……。
境界線は右へ左へとどんどん延長されて、そのこっちと向こうで行われている争いはどんどん大きく広がり、あっという間に国を分けての戦にまで発展してしまっている。そしていまやこの戦の火種は国際間にまで飛び火しようとしている。
もはや誰もなぜこの戦いがはじまったのかわからないし、自分たちがなんのために闘っているのかすらわからなくなっているのだった。
了