評価:★★
やたら芸術に詳しいフリーター探偵・神泉寺瞬一郎が活躍するシリーズ。
とは言っても、今回は瞬一郎の出番は少ない。
代わって前作「トスカの接吻」にも登場した
テノール歌手・藤枝和行が主役を張る。
時系列的には「トスカの接吻」の二年くらい前にあたる。
ある晩、藤枝は婚約者・有希子の誘いで、
怪しげな占い師の老婆のもとを訪れる。
その老婆の口から語られた予言は、藤枝の成功と有希子の死だった。
その後、藤枝はドイツのバイロイト音楽祭で上演される
歌劇「ニーベルングの指輪」のジークフリート役に大抜擢されるが、
公演直前に有希子は列車事故で落命してしまう。
物語は、有希子の葬儀を終えてヨーロッパへ戻り、
瞬一郎の登場や女医・佳子との出会いを絡めながら
ラストの「ジークフリード」上演へ向けての藤枝の行動を追っていく。
・・・なんだが、正直、この藤枝というキャラがどうにもいけ好かない。
あんなに献身的だった婚約者を失って四十九日も明けないうちから
女漁りにうつつを抜かしてるんだから・・・
まあ、"天才肌の芸術家" なんだからそんな面もあるのかな。
実際の社会にもいるよね。
仕事は抜群に出来るけど女癖が悪い人ってのも。
ああいう人たちは、生まれつきそういう風に出来てるとしか思えない。
私なんか、「女性」なんていう難しくてワケノワカラナイものを相手にするのは
かみさん一人で十分な気がするんだが、
彼らはきっと、全くといっていいほどそういうものを苦にしないんだろうなぁ。
すみません。モテない男のヒガミですね~、これは。
「ジークフリード」上演開始直前の楽屋。
開演を待つ藤枝を訪ねて、瞬一郎がやってくる。
彼の語る、この物語に秘められた "真相" 。
藤枝の「出世物語&漁色日記」(笑)の底流に、
意外な「事件」が潜んでいたことが明かされる。
ミステリとしてみれば星3つあげてもいいんだが
あまりにも藤枝のキャラに感情移入できなかったので一つ減で星2つ。
(ホントは星1つにしようかと思ったんだが、
瞬一郎君が披露するヴァイオリンの腕前に免じて。)
とは言っても、この物語の主眼はミステリではなく、あくまでオペラである。
クライマックスのステージ上で、藤枝はある "奇蹟" に遭遇する。
(実はこれも、冒頭の老婆の「予言」にあったものなんだが)
まあしかし、これを目の当たりにしたって、
藤枝はきっと、翌日からはまた女漁りに没頭するんだろうなあ・・・
巻末の解説によると、占い師の老婆は他の作品にも登場するらしい。
彼女の正体もそこで分かるんだろうか。