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『駅物語』

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駅物語

駅物語

  • 作者: 朱野 帰子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/07/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
「大事なことを三つ言っとく。緊急時は非常停止ボタン。間に合わなければ走れ。線路に落ちたら退避スペースに入れ」 酔っ払う乗客、鉄道マニアの同期、全自動化を目論む副駅長に、圧倒的な個性をもつ先輩たち。毎日100万人以上が乗降する東京駅に配属された若菜は、定時発車の奇跡を目の当たりにし、鉄道員の職務に圧倒される。臨場感あふれる筆致で駅を支える人と行き交う人を描ききった、書き下ろしエンターテインメント!
気がつくと2週前に借りていた本の図書館返却期限が近付いてきていた。ここ2週間、異動直後の戸惑いでなかなか本をゆっくり読んだりする時間もなかったので、週末の土曜日は完全オフに充て、読みかけの本を片付けることにした。 まず読みきったのが朱野帰子(あけのかえるこ)さんの『駅物語』という作品。東京駅を舞台にした新人駅員の1年を描いた作品だ。駅を舞台にした作品も、駅員が主人公の作品も初めてで、小説を通じて鉄道と駅の裏側を垣間見ることのできる、興味深い1冊だった。 僕らは普段通勤通学で首都圏の鉄道各線を利用していて、「緊急停止」「停止信号」「線路内に人が立ち入った」「車両点検」「急病人の救護活動」「信号トラブル」「人身事故」等、いろいろな理由でダイヤが乱れ、自分の移動の足に影響が出るたび、「何やってんだ」と悪態をつきたくなることがよくある。やり場のない怒りは時として駅員に向けられてしまうこともないことはない。こうして鉄道に絡んで起きる様々なトラブルの発生の事情をこうして小説で見せられると、もう少しの思いやりと忍耐を持つことが必要で、さらに、「これくらいなら許されるでしょ」という自分勝手な甘えは厳に慎まねばならないものだと痛感させられる。 特に僕が気をつけなければいけないのは、駆け込み乗車がもたらすリスクだろう。滑り込みセーフで本人はハッピーかもしれないが、それで鉄道会社は正確な運行に支障を来すし、急いでいた別の乗客がそれでイライラを募らせることにもなり、別のトラブルを誘発しかねない。本人以外の誰にもメリットがないのだ。それに、本書を読んでいると、いわゆる「撮り鉄」の傍若無人ぶりにも鼻白む思いがする。「自分さえ良ければ」という発想は控えないといけない。 主人公の事情も、周囲の人々の表の言動と背反する裏の事情も、描き方としてはわかりにくいところはあったし、駅員の勤務の仕方もすぐには理解しにくかった。(百田尚樹が同じ素材を書いたら、もっと情景描写が上手いのではないかとふと思ったりもした。)でも、それでも乗降客数の多いターミナル駅を支える人々の、僕らの知らない姿を知るにはとてもいい本だと思った。

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