人形作成師をしているちょっと頼りない父親のハルさんと、しっかり者の
一人娘ふうちゃんが織りなす物語。
幼稚園入園後に突然妻を失い、男手一つで育ててきたふうちゃんも23歳。
ハルさんがまだ会ったこともない男性と突然結婚して外国生活をするという、
その結婚式当日の物語。式に向かう間に思い出す5つの謎めいたできごと。
あたふたするばかりのハルさんに、的確な答えを教えてくれたのはいつも、
亡くなった妻、ふうちゃんの母親だった。そんなミステリー連作。
幼稚園時代、小学校4年生、中学校2年生、高校3年生、大学1年生と
ふうちゃんは成長していく。ハルさんもちょっとは成長できたのかな。
少なくとも最初は玉子焼きもうまくできなかったハルさんが、料理本も
見なくても冷蔵庫にある物で簡単な食事は作れるようにはなってきたが、
でも、ふうちゃんの成長に伴う変化にはおろおろするばかりでついていけない。
それでも、幻で現れる亡き妻に教えられて成長を見守れるようにはなった
かもしれない。
5つのミステリーは解かれてきたが、最後に大きな謎が残ってしまっている。
親思いのふうちゃんが、どうして父親一人残して遠い外国に結婚して
出て行ってしまうのか。
その答えははっきりとは書かれてはいないが、結婚式での新郎の挨拶の中に
ヒントが隠されている。
確かに結婚相手を選んだのはふうちゃんだったが、折々に触れ、ハルさんが
語ってきた言葉を具体的イメージにしたのがこの新郎だった。
つまりはまだ見ぬ花婿を選んだのはハルさん自身だったという。
5つの物語を通してこの親子を見てきた読者はこの部分でハルさんと
一緒に泣いてしまう。
現実的にはこんな親子はいないだろう。甘すぎる父親。娘はもっと
反発してもおかしくない。
反対に、この娘がどうして父親の手の届かない所に行ってしまうのか、
やっぱり疑問として残る。
結婚相手として選んだ彼が海外で働いているというのはまだわかるが、
大学を北海道に選んだ理由が書かれていない。彼氏と知り合ったのが
その後のことだとわかっているし。
ミステリー自体は都合良く出来ている。状況証拠から来る推測にすぎない
のだが、その推測に合わせるように、後から事情が判明している。
まあ、本当に書きたい部分がそこにはないからいいかもしれないが。
文庫本あとがきが目にとまる。
そこに書かれたミステリー作家の数々に興奮してしまう。
法月綸太郎の「頼子のために」や井上ほのか、なんて名前を見れば
なるほど、だからそうなんだと納得してしまう。
5つの物語の内最終の話だけが違和感がある。他の4つがふうちゃんに
直接関わる話なのに、この第5話だけがからんでいない。
でも、この話自体が長い前置き、伏線だと思えば納得もできる。
人形が消えたという事件がメインじゃなく、ふうちゃんが消えてしまう
と言うことがメインの話。いや、それを言ってしまえば、それまでの
すべての話が前置きであり伏線になってしまうのだが。
作者は不幸な家庭環境にあったらしい。だからこそこんな父親を描いた
ようなのだが、自身の生い立ちから子育てをすることの恐怖があった
ようだが、この物語を書いたことで結婚し、子どもを育てる決意が
できたという。そういう癒しの物語でもあるようだ。
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