「これからは新興国の時代だ」という掛け声だけが勇ましい会社(今どきそんなところは少ないだろうが……)があったら、本書を読んでこう聞いてみて欲しい。
「で、どの国を狙うんですか?」と。
当たり前の話だが、”新興国”といっても一様ではない。国によって事情はぜんぜん違う。BRICsとしてひとくくりにされる4カ国でも経済成長の源泉はバラバラだ。そんなアタリマエのことを気づかせてくれた上で、次にブレークアウト(壁を突破した経済成長)する国について分析した、内容の濃い一冊。
以前にエントリを書いた「
「三つの帝国」の時代――アメリカ・EU・中国のどこが世界を制覇するか」に近いのだが、本書は経済面に特化していることと、最新の情報が入っていることが特徴だ。
【目次】 長い目で見れば何でも正しい?本書を貫く基本的な姿勢は、”コモディティの時代の終わり”だ。ここ十年は原油に始まり、金・穀物と言った商品価格が右肩上がりの時代であった。コモディティ価格の上昇に引っ張られて、ブラジル・ロシア・南アフリカといった国々の経済は好調だったが、多くの国にコストプッシュインフレを引き起こしてしまった。 当然、人類がそうした状況に黙っているわけはなく、省エネや代替エネルギーの開発に多くの資金と技術が投入されている。その成果は近々現れてくるはずで、コモディティ価格は下落の方向に向かうだろうというのが筆者の読みだ。シェールガス革命はその第一歩となるのだろう。 現在絶好調の新興国経済はコモディティに多くを頼っている国が多いのが特徴。筆者の読み通り、コモディティの需要が低下するならば、必然的に成長にブレーキが掛かる。 そうした逆境の中で更に伸び続ける新興国は、”コモディティに依存していない”または、”現在の余力を正しい経済成長に向けている”国々だ。そして、そのように明るい未来を持った国は実は非常に少ない。 有力どころでは、ロシア・ブラジル・南アフリカはご存知のごとくコモディティ依存の経済だし、現在の収入の多くは社会保障など将来の成長に向かわない投資に使われているので”コモディティの時代”が終われば経済も下向くはずだ。インドは資源輸入側だが、新興国経済が注目され多くの投資を得たにもかかわらず社会資本の整備が進んでいないため、先行き明るいとは言いがたい。中国も国民所得が相当に上昇したので、今までの経済成長ペースを維持していくのは難しい。 このように、基本的な方向感としては、新興国経済のブームは終焉に向かうのだ。 では、ブレークアウトする国はどこになるのか? 筆者が挙げているのは、アジアでは韓国・インドネシア。欧州では、チェコ・ポーランド・トルコだ。これらの国々は、コモディティ依存度合いが低く、経済成長に必要な社会資本の整備が進んでいるので、もう一段先の豊かさを手に入れることができると筆者は予測している。 特に、韓国に対する筆者の評価は高く、明確に言及しては居ないが日本を追い越すような論調で語っている。 また、新興国経済が停滞することの副次的効果として米国・ドイツといった先進国経済に楽観的なのもひとつの特徴だ。(残念ながら、日本に対してはあまりよいイメージを持っていないようだ。ドイツを楽観できるなら、日本も十分に思えるのだが、そうではないらしい)。 このように、経済面から見た将来予測を世界規模で行っており、そのうえで、時代の転換を予言しているところが目新しい。企業の経営戦略を考える部署にいるような人は読んでおいて損はないだろう。 ☆☆☆☆☆(☆5つ) 他のBlogの反応はこちら。 http://d.hatena.ne.jp/elsuenyo/20130814/1376485831 http://www.amanosaizo.com/amen/2013/06/post-736d-3.html http://rakuchin.at.webry.info/201305/article_3.html http://blog.goo.ne.jp/tom4026/e/f65eaf466ab050b361632b1b76136644 http://life8ted.blog61.fc2.com/blog-entry-250.html
宴の後―中国
誰もが驚く魔法のロープ―インド
神様はきっと、ブラジル人?―ブラジル
「大立て者」経済―メキシコ
天上にしかスペースがない―ロシア
ヨーロッパのスイート・スポット―ポーランドとチェコ
中東に響く単旋律―トルコ
虎への道―東南アジア
金メダリスト―韓国と台湾
エンドレス・ハネムーン―南アフリカ
第四世界―スリランカからナイジェリアまで
宴の後の後片付け―コモディティ・ドットコムを越えて
「第三の降臨」―次なるブレイクアウト・ネーションズ