すると、宴席の下座にいた香取が、手を挙げた。
「はい。私もそう思います。 天竜寺の北門から出て、突然、お二人とも姿を消されて……野宮神社でも、私が駆けつけた時は幾ら探しても姿が見えなかったのに、雨の中、突然眼の前に姿を現されて。 あの時は、どうしてか、判らなかったのですが、課長が今おっしゃったので、私も勘が閃いて、きっと超能力だ、そう思ったんです」
「なんや、香取、お前も勘かいな。 でもな、先生の勘とちごうて、お前の勘はあてにはならへん。 こないだも、『私の勘では、マスターは、三十代か四十代の男に間違いない』 って、言ってたやないか。 そやから、お前の勘は信用ならへん」
桜井が決めつけるように言うと、香取は頬を膨らませた。
「おい、香取、お前、そんな顔するから、男がでけへんのやで。 唐沢さんの奥さんに頼んで、一度、男口説く方法でも、教えてもらえ、ええな。 ワッハッハハ」
「課長、それは、セクハラです。 それに、唐沢さんの奥さんにも失礼ですよ、ねえ」
香取は美香に同意を求めたが、美香は、大きな身体をすくめて、顔を赤くしただけである。
「いやあ、うちの美香は、凄腕ですよ……実はね……痛っ」
唐沢が、自分たちのなれ初めを披露しようとすると、美香の太い指が、彼の太ももをつねりあげていた。
唐沢と美香が結婚することになったのは、飲み会のあと、唐沢が酔った美香から無理やりホテルへ連れ込まれたのが、きっかけだったのである。
「ところで、あの六条河原で吉本敦子が見たという三人の武将の姿。 あれって、六条河原に巣くっている怨霊だと、思うんですよ、私は。 ところが、ほんとに見たのは吉本敦子だけ。 なのに、他の四人は、マスター、つまり吉本辰夫に指示されて、見たように証言した。 吉本敦子が怨霊を見たのは納得するとしても、なぜ辰夫がそれを予知するようなことを指示したのか? そこが……私には……説明できないんですよね、うーん」
太ももをさすりながら、唐沢が言った。
「唐沢さん、敦子と辰夫は姉弟ですよね。 そして、ご先祖は石田三成の家臣。 だから、怨霊が石田三成だったとしたら、それで説明がつきませんか」
佑太は言った。
「なるほど……石田三成の怨霊は、彼の家臣の子孫の二人だからこそ見えたし……存在も知り得た、そういうことですか。 なんか、安藤先生が説明されると、素直に腑に落ちますね」
唐沢は、納得したのか、頷いていた。
「そう言えば、辰夫の部屋には、黒魔術だなんだのと、変な本がぎっしりと積まれてましたよ。 その中身をうちで調べてみたんですが、ありましたよ、三匹の猫を生贄に悪霊を呼び出す儀式が。 辰夫は、そこに赤でチェックを入れてました。 だから、あの三匹の猫の死体は辰夫にとっては意味があったんですよ」
毛利が言った。
「へえー、それじゃあ、その儀式が怨霊を呼び寄せたってことになりますよね、先輩」
唐沢は、さらに納得した顔になった。
続く⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-11-17-1
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