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野性の知能 裸の脳から、身体・環境とのつながりへ

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野性の知能: 裸の脳から、身体・環境とのつながりへ

ルイーズ・バレット/著 小松淳子/訳
出版社名 : インターシフト
出版年月 : 2013年7月
ISBNコード : 978-4-7726-9536-7 
税込価格 : 2,415円
頁数・縦 : 353p・20cm


 動物の知能(のように見えるもの)とは、必ずしも大脳の働きによってもたらされるものではない。単純な「条件反射」的な行動が、あたかも大脳の制御によって行われているように見える仕組みを、さまざまな実験結果と考察に基づいて論証する。動物は、人間のように「考えて」行動しているのではない。大脳のような高度で高価な機関を持たなくても、環境をうまく利用することで繁栄することができるのである。

【目次】
第1章 人間そっくりは間違いのもと
第2章 擬人化って何?
第3章 小さな脳でもお利口さん
第4章 奇想天外! ケアシハエトリ
第5章 大きな脳が必要なのはどんな時?
第6章 生態学的心理学
第7章 メタファーが生む心の場
第8章 裸の脳なんてない
第9章 世界は生きている
第10章 赤ちゃんと身体
第11章 空よりも広く
エピローグ あるがままの世界を見るために

【著者】
バレット,ルイーズ Louise Barrett
 レスブリッジ大学の心理学教授。主な研究テーマは、動物の認知と行動。とくに霊長類の行動と環境・認知のかかわりについて調査研究を進めている。また、「身体化された認知」をテーマとする講座も開催。2冊の単著(本書を含む)と3冊の共著がある。

小松 淳子 (コマツ ジュンコ)
 翻訳家。訳書に『脳の中の身体地図』『プルーストとイカ』『死と神秘と夢のボーダーランド』『喜びはどれほど深い?』『間違いだらけの子育て』など。

【抜書】
●紡錘状回顔領域(p47)
 人間の脳には、顔や顔に似た刺激の処理に高度に特化した領域がある?
 FFA(Fusiform Face Area)。
 顔認識に特化しているのではなく、個体としてのレベルで認識する必要がある刺激に対して特化すると考える研究者もいる。専門家の場合、車や鳥を見てもFFAが賦活する。

●マキャベリ的知能仮説(p54)
 社会的知能仮説。〔構造化された社会集団(数世代の様々な血縁度の動物が構成している集団)内での生活は本質的に複雑であるため、そうした集団を構成する動物には賢く協力し競争するための高度な認知メカニズムが必要になる、という仮説〕。
 レスリー・ブラザーズ(神経科学者から精神分析医に転身)の研究。霊長類の脳において、他の個体が発する社会的刺激への反応に関わる数々の領域を同定。→ 「社会脳」と命名。扁桃体、内側側頭葉、眼窩前頭皮質、上側頭回。
 ロバート・バートン(心理学者)の研究。進化の過程で、霊長類では進化の過程で新皮質のうちの視覚野(特にV1と呼ばれる領域)が拡大。昆虫食から果実食へと移行、昼間に活動するようになったことが大きな原因。
 霊長類の視覚系……①大細胞系経路。運動に関わる。すべての哺乳類に共通。脳の背側部(上側)を通って前頭葉へ。 ②小細胞系経路。詳細な形状や色の検出に関与。霊長類に特有。脳の腹側(下側)を通って扁桃体へ至る。
 小細胞系経路……霊長類において社会集団の規模との関係が明らかになっている。顔の表情と姿勢によって相手のシグナルを受け取るため。

●ホヤの遊泳幼生(p109)
 ホヤの遊泳幼生は、二つのライフステージを送る。
 第1ステージ……海中を泳ぎまわって暮らす。300個ほどの細胞からなる小さな脳(実は神経節)がある。
 第2ステージ……岩に固着し、自分の脳と神経系の大半を吸収してしまう。より原始的な状態に逆戻り。実質的に植物に変身してしまう。

●ロング・リーシュ型(p127)
 マーズ・エクスプローラ……火星表面の地図を作成するために設計された宇宙探査機。
 マーズ・ローバー……火星の表面土地質を調査するために設計されたロボット。
 ローバーが火星に到着するまでの間に火星の地盤の諸条件が大きく変化する可能性あり。地球-火星間の信号の送受信に片道数分かかる。前もって詳細なプログラムを組み込んでも役に立たない。
 ローバーの制御は、犬に短い引綱(リーシュ)をつけたように、厳しく行動をコントロールすること(ショート・リーシュ型)を諦め、自由度の高いロング・リーシュ型を採用。
 同様に、予測不能な環境状況の変化に対応するため、大きな脳が必要になる。〔世界で何事かが起きたその時に、それに応じて知識を獲得し、高め、修正する能力を動物に与える大きな脳だ。〕

●女家長(p131)
 像の雌たちは、「女家長」と呼ばれる最年長の雌1頭を中心とする家族集団で暮らしている。
 時には家族集団が合流して大きな群れを作ることもあるが、基本は家族ごと。
 他の群れと遭遇した時、女家長の経験が生きる。出会った群れを認識して適切に対応する能力は、高齢な女家長ほど優れている。防御態勢をとる頻度も少ない。

●アフォーダンス(p143)
 afford……提供する、利用可能にする。
 アフォーダンス……特定の対象、つまり情報源が動物に提供する行動の機会と可能性。動物は環境のアフォーダンスとの関係において情報を探索し、行動を調整する。
 同じ環境資源であっても、動物に提供する可能性(アフォーダンス)はそれぞれの動物によって異なる。
 椅子は、切り株同様、人間にとって腰掛ける場所をアフォードする。イチジクの木は、チンパンジーには登ることを、像にはお尻を擦りつけたり押し倒したりする行為をアフォードする。
 〔アフォーダンスとは、知覚情報を利用可能にするものという意味の用語だ。つまり、特定の種類の動物にとって重要な不変項である。たとえば、地面の不変項である硬さは私たちに歩行をアフォードするし、壁の不変項である垂直性と硬さは寄りかかることをアフォードする。となれば、環境世界も無関係ではない。不変項は常に存在するが、その重要性は動物によって異なるからだ。靴がアフォードするのは、人間の場合は足の保護だが、犬にとっては齧ることだ。足の保護には形状の不変項がきわめて大きな意味をもつけれど、齧る分にはさほど問題にならない。しかし、耐久性と質感は、履くにも噛むにも大問題だ。〕

●進化(p227)
 〔進化はその歴史のその大半を、動物が世界を動き回り、環境と能動的にかかわり合うのに役立つ知覚と行動のメカニズムの向上に費やしてきた〕

●形態による計算(p236)
 形態による計算=morphological computation。
 形態による情報処理機能で、身体の一部の物理的・力学的特性が本来なら特異的な神経制御を必要とする作業をうまくこなすこと。
 たとえば、足が地面をけった時の膝の動きは、脳や脊髄が制御するのではなく、脚部の力学的特性がもたらす結果である。唯一、中枢神経系がかかわるプロセスは、筋肉の弾性度の調節。

●TVSS(p292)
 TVSS=視触覚変換システム。
 「ベッド・オブ・ネイルズ」という研究(1960~70年代)……先端が丸い金属突起(機械振動子)を何本も配列したグリッドを視覚障害者の背中に取り付ける。頭部に装着したカメラからの入力情報をグリッドの動きに変換し、皮膚を刺激する。被験者にとって、このピリピリという刺激が、しだいに視覚経験に変わっていく。目ではなく、皮膚を通して物を見る。

(2013/9/21)KG

〈この本の詳細〉
honto: http://honto.jp/netstore/pd-book_25698123.html
e-hon: http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032946130


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